アタマから楽屋落ちで恐縮だが、DS7クロスバックの発表会は都内の一流ホテルで行われた。コレ自体、以前はさほど珍しいことではなかった。しかし、最近では割と少ない。まあ、それはいい。ここで一番言いたいのは開場時間だ。通常は発表の30分前(ほぼ100%がそう)だが、このモデルの場合は1時間前だった。多少違和感を覚えつつ45分ほど前に会場に入る。と、軽食と飲み物が用意されていた。これは珍しい。なるほど。納得した。それくらい力を入れているということだろう。
DSは1955年にシトロエンからデビューしたアッパーミドルカー(セグメントC)だが、サイズや漂わせる雰囲気はそれ以上のものがあった。その後モデルを追加しながら20年ほど生産された。ド・ゴールやポンピドゥの大統領のリムジン(プレジダンジェル)としても知られている。
ただ、プジョーとシトロエンの関係は複雑で、プジョーがシトロエンを吸収してPSA・プジョー・シトロエンに一旦なった。しかし2014年にはプジョー、シトロエン、そしてシトロエンから飛び出させたDSの3ブランドに分かれ、2015年には社名をグループPSAに変更した。このなかでDSオートモビルはラグジュアリーブランドという位置づけだったが、日本ではあまり浸透しなかった。まあ、一般的には突然のことだったしね。
大幅に落ち込んだDSのグローバル販売台数は今年の上半期にグイっと回復した。それを牽引したのがこのDS初のSUVである。本社から来日したエリック・アポッド副社長が言う。
「DSクロスバックは全世界で第二四半期1万3129台売れ、約1万5000台のオーダーを抱えています。フランスではCセグメントSUVナンバーワンの座を維持しています」
PSAのインド・パシフィック地域事業部長エマニュエル・オゥレ氏は、
「私の担当地域の中では日本はもっとも重要な市場です。このクルマはPSAの日本におけるターニングポイントになると思います。プレミアムなクルマだけでなくプレミアムな環境も提供したい」とも。
何やらバブル期の日本に対する評価を聞いているようだった。悪い気はしないけど……。
この意匠、この質感。ちょっと憧れる
DS7クロスバックの日本デビューは昨年の東京モーターショー。前述のアポッド氏や駐日大使とともに登場した全長4570mm×全幅1895mm×全高1635mmの堂々たるボディはそれなりに存在感があった。
しかし今回じっくり見てみると細部の工夫も素晴らしいことに気づいた。「フランス車ってデザインはいいけど質感がねえ」という時代があったが、今やそんなことはない。とくにDSのフラッグシップとなるDS7ではクオリティ対策も万全だ。いつまでも‟ジャパニーズ・クオリティ“に自信を持ちすぎていると国産車も世界から取り残されるかもしれない。
まずエクステリア。とくにヘッドライトだ。LEDのコーナリングランプは当然としても、このモデルの場合は解錠すると左右3個で構成される個々のランプが紫色に光り180°回転する。面白いだけでなく微妙な調光ができる。レザー彫刻技術によって刻まれた3D・LED採用のテールランプの文様も人目を引くだろう。
ドアを開けて室内に入れば驚きはさらに増す。完全デジタル化したインストルメントパネルのデザインも仕上がりも上々。安っぽさはない。上級グレードではエンジンをかけるとダッシュボード上部にB.R.M(ベルナール・リシャール・マニュファクチャー)のアナログ時計が飛び出す。この質感も高い。他の装備も同様で(例えばセンターコンソールに移されたパワーウインドースイッチ類)、クオリティがデザインに負けてはいない。ほどよいアバンギャルドさ(革新性)である。
セイフティディバイスでも世界標準に負けない。
第一はアクティブスキャン・サスペンションだ。カメラが常時25m先を読み10mm以上の凹凸を検知して4輪のダンピングを調節する。フラットライドの強い味方だ。
コネクティッド・パイロットは運転支援機能。同一車線での加減速、操舵、レーンキープなどをアシスト(自動運転レベル2)する。他メーカーにも同様な支援技術はあるが、これからは必要技術になるかもしれない。
ナイトビジョン──赤外線カメラが300m先を探知し、150m以内の歩行者、自転車、動物を捉える(オプション)。Dセグメントにもまだあまりついていない機能だ。
グレードは「ソー シック」と「グラン シック」。エンジンはソー シックが2ℓ直4ディーゼルターボ(177ps)、グラン シックが2ℓ直4ディーゼルターボと新開発の1.6ℓガソリンターボ(225ps)。トランスミッションはアイシンAWと共同開発の8速ATだ。これもPSAとしては初めて。
価格(税込み)はソー シックが469万円、グラン シックが542万円(1.6ℓ)と562万円だ。内容を見ればむしろ安いと感じさせる。
これに組み合わされる内装はベーシックなバスティーユ(フランス革命発祥の地)とラグジュアリーなリヴォリ(リヴォリ通り)。さらにその上にはオプションでオペラが設定されている。つまりフランスを、パリを十分楽しんでいただきたいという目論見だ。また来年にはDS7クロスバックのPHEV(300ps)も導入される予定だという。
でも、でも、である。意気込みはよくわかった。クルマもいい。現時点で7か所しかない専売拠点を増やすのに時間がかかるのも仕方ない。ただ、いま、そんなにパリがウリになるのか。シプジョー・トロエン・ジャポンのマーケティング部長のオモン氏は答える。
「そのあたりは分かっているつもりです。だから一歩一歩やっていきます」
時には、単独でではなく、ルノーとも協力しつつフランス車のイメージを高めてほしい。そんな試みをしてこそ、開場時間を30分早めた意味があるではないだろうか。
報告:神谷龍彦
写真:佐久間健 怒谷彰久
基本的にはクーペ。解錠するとヘッドライトが紫になる。微妙な光軸調整にも貢献する。
全高は1635mm。タワーパーキングは無視。ソーシックのホイールは18インチ、グランシックは20。
メタリック塗装は7万0200円、パールは9万1800円の追加料金が必要。ホワイトソリッドは無料。
スイッチ類をまとめたセンターコンソール、シフトレバー、シート……質感に不満は一切ない。
解錠するとダッシュボード中央にB.R.Mのアナログ時計が飛び出してくる。フランス流おもてなし?
エンジンはこれまでのDS車に使われていた2ℓディーゼルターボと新開発1.6ℓガソリンターボ。
左から本社副社長のエリック・アポッド氏、プジョー・シトロエン・ジャポン社長のクリストフ・プレヴォ氏。
会場に展示されていた1964年製シトロエンDS23パラス。全長4870mm×全幅1800mm。1360kg、4速MT。1955年にパリサロンで初代DSが発表されたときはその日のうちに1万2000台が売れたという。