アウディ Q8 eトロン

速く、静かに、そして快適にハイウエイクルーズするアウディ Q8スポーツバック eトロン。

テールランプは流行の一文字タイプ。リアエンドには小ぶりのスポイラーも備わる。

スタイリッシュなクーペSUVは都会的なデザイン。実寸より見た目はコンパクトに感じる。


エンジン車から乗り換えても違和感のない、スポーティかつ上質なインテリア。

シートバックにSラインのロゴが入るフロントシートはスポーツタイプ。

クーペSUVながらヘッド&フットスペースとも十分に広いリアシート。


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 アウディのフラッグシップSUV 電気自動車の「eトロン」がマイナーチェンジされ、車名も「Q8 eトロン」となった。日本仕様は今春に発表されていたが、ようやく導入が開始され、試乗する機会を得た。


電動化計画を進めるアウディのフラッグシップBEV

 2025年に内燃エンジン搭載最後のニューモデルを生産。2026年以降は新たに発表するモデルはすべてBEV(バッテリー電気自動車)に。そして2033年には内燃エンジンの生産を停止(中国を除く)。と、電動化に向けたプログラムを進行中のアウディ。既に全世界で15万台以上のBEVをデリバリーしている。

 そんなアウディの本格的なBEV路線の第一弾として登場したのが、2018年に世界初公開された「eトロン SUV」だ。日本では、そのクーペSUVにあたる「eトロン スポーツバック」が2020年9月から、少し遅れてeトロン SUVも導入されている。

 そのeトロンがマイナーチェンジされ、車名も「Q8 eトロン(SUV/スポーツバック)」となった。これは、アウディ車において「クワトロ」が4WDを示すように、「eトロン」がBEVを示す総称としたため。そこでフラッグシップSUVである「Q8」の車名も与えられたというわけだ。

 今回の試乗車な、クーペSUVのQ8 eトロン スポーツバック。トータルで300kWと664Nmを発生する2基のモーターで4輪を駆動する「55 eトロン クワトロ Sライン」というグレードだ。ちなみに、スポーツバックはモノグレードだが、SUVは同じパワーユニットと、250kW/664Nmの「50 eトロン クワトロ Sライン」の2グレードとなる。


エアサスの熟成で上質になった乗り心地

 開口の少ないシングルフレームグリルをブラックマスクで囲む新デザインで、顔つきは一新した。2次元デザインになったフォーリングス、リアディフューザーのデザインなど、よく見ると細部はかなり従来型から変更されている。

 試乗車のスポーツバックは流麗なクーペスタイルのSUVで、なかなかスタイリッシュ。都会の風景にも、よく似合う。ウルトラブルー メタリックと呼ばれる美しいブルーのボディカラーが映える。全長4.9mあまり、全幅も1.9mを超えるボディは引き締まっていて見た目は大きくは感じないのだが、乗り込んでみると広いし、狭い街中などではサイズが少し気になるところ。

 リサイクル素材を積極的に使用したインテリアは、従来型と大きく変わってはいない。アウディらしいスポーティかつラグジュアリーな雰囲気でまとめられ、インターフェースの操作性や視認性も問題ない。また、スイッチ類などもエンジン車と大きな違いがないから、BEVへ乗り換えるユーザーに違和感を与えることはないだろう。シフトセレクターはレバー風のアームレストにセットされているが、慣れてしまえば使いにくくはない。

 走り出してみると、まず以前に従来型を試乗したときより乗り心地は上質なものになっていた。これはエアサスペンションの進化と熟成の効果と思われる。車内のどのポジションに座っても、この印象は変わらなかった。アコースティックガラスが採用されているとはいえ、BEVらしく走行音はきわめて静か。今回は市街地と首都高速での試乗だったが、空力性能も高いため高速走行でも静かさは変わらなかった。

アウディらしい乗り味はエンジン車から変わらない

 また、加速の仕方が、いわゆる電気自動車のロケット的な加速ではなく、エンジン車に近いフィーリングになった。首都高速で前が空いたときアクセルペダルをベタ踏みしてみたが、ドカン!とではなく、ジワッ!と加速する。それでも十分以上に恐ろしく速いのだが。アダプティブクルーズコントロールなどの安全運転支援システムも使いやすく、車線&車間キープ能力といった精度は高い。もちろん過信は禁物だが、長距離のハイウエイクルーズでも安心&快適にストレスなく過ごせそうだ。

 ドライブモードはオート/エフィシエンシー/コンフォート/ダイナミック/インディビデュアル/オフロードの6段階に切り替えられる。ダイナミックでなくても十分に速いし、コンフォートなら乗り心地重視、エフィシエンシーなら電費重視となるが、普通に走るならオートで問題ない。オフロードでは車高が上がるようだが、今回は試していない。

 そして以前に乗ったときにも感じられたのだが、アウディらしい乗り味はエンジン車から継承されている。それは何なのかと問われると具体的には答えにくいのだが、アクセルペダルやブレーキペダルを踏んだり、ステアリングホイールを切ったときのクルマの挙動、そして前述したインターフェースの操作性や視認性などが、エンジン車から乗り換えても違和感はきわめて少ないということ。

 これは、メルセデス・ベンツやBMWのBEVにも共通していえることで、ドイツ車らしく各々が乗り味のアイデンティティを大切にしている。この感覚は、まだ日本車では味わうことができないのが残念だが。

 クーペスタイルのSUVではあるが、リアシートはヘッド&フットスペースとも十分。試乗後にSUVのリアシートにも座ってみると、やはりスポーツバックより広いが、スポーツバックでも不満ない広さだ。おとな3人乗車で中央に座っても、さほど不快ではないと思われる。ラゲッジスペースも528L(SUVは569L)と、かなり広い。フロントにも62Lの「フランク」を備える。WLTCモードの航続距離は501kmもあるから、1泊の小旅行なら途中で充電する必要はないだろう。

 そもそも車両価格だけで1300万円を超えるのだから、悪いクルマであるはずがない。自宅の充電インフラ環境や予算的にも問題がないのなら、ぜひとも試してもらいたい1台だ。「電気自動車」ということを意識せずに使えるSUVというのも、重要なポイントだろう。

報告:篠原 政明/写真:アウディジャパン


■ アウディ Q8スポーツバック eトロン 55クワトロ Sライン 主要諸元

●全長×全幅×全高:4915×1935×1620mm
●ホイールベース:2930mm
●車両重量:2600kg
●モーター:交流同期電動機×2
●最高出力:300kW
●最大トルク:664Nm
●バッテリー総電力量:114kWh
●WLTCモード航続距離:501km
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:255/50R20
●車両価格(税込):1317万円

最終更新:2023/11/26