ルノーアルカナのハイブリッドを解析する
――今までにないハイブリッド形式――

飯塚 昭三

ハイブリッドシステムの形式と現状

 全く新しい形式のハイブリッド「E-TECH」を搭載したルノーアルカナの試乗の機会を得たので、そのハイブリッドシステムについて考察してみた。
本題に入る前に一言。ハイブリッドシステムの分類というとシリーズ、パラレル、シリーズパラレルという3方式に分けることが多い。私はそれより1モーター式か2モーター式かで分類するほうが考えやすいと思っている。
 欧州のハイブリッド方式はエンジンとトランスミッションの間にモーターを挟む方式か、FF車の後輪にモーターを設けるものか、あるいは48Vのモーターをベルトでつなぐものがほとんどで、いずれも1モーター式である。そもそも2モーター方式がなかった(かつてBMWアクティブハイブリッドX6がメルセデスとGMとで共同開発した2モーターハイブリッドを搭載したことがあったが、一代で終わってしまった)。すなわち、今回のルノーアルカナ以前は、欧州ではきめ細かな制御が可能な2モーターハイブリッドを持っていなかった。
 2モーターハイブリッドではきめ細かな制御が可能であり、高効率、低燃費が達成できる。日本の2モーターハイブリッドにはトヨタのTHS、ホンダのe:HEV(旧i-MMD)とアウトランダーに搭載してデビューした三菱の方式がある。これらは、分類としてはシリーズパラレル式である。このほかに、シリーズ式として日産の「e-POWER」とダイハツの「e-SMART HYBRID」がある。このように日本は3種類もの2モーターハイブリッドを持っている。

E-TECHの特徴

ルノーアルカナに搭載された「E-TECH」は、今までにない形式の2モーターハイブリッドだ。しかし、その性格は1モーターハイブリッドに近いといえる。なぜか。
 1モーター式のハイブリッドでは、必ずトランスミッションを持っている。エンジンとトランスミッションの間にモーターを挟む方式をはじめ、他の方式を考えても、必ずトランスミッションが存在している。
しかし、2モーター式のハイブリッドではいずれもトランスミッションを持っていない。それはトルクレンジの広いモーターで走るのを基本としているからだ。エンジンで直接駆動するのはモーターが苦手な高速走行のみで、それに合わせたギヤ比、例えば5〜6速相当を設定しておけば事足りるわけで、シフトチェンジの必要はない。かつてクラウンなどのFR用THSで2段の自動切り替えを採用したことがあったが、その後1段の固定(リダクションギヤ)に変更した。このようにトランスミッションを設けるにしてもせいぜい数段の切り替えでよいのが2モーター式ハイブリッドの特徴である。
 E-TECHでは2モーター式ながら1モーター式のようにトランスミッションを持っている。それも多段のトランスミッションであり、従来の2モーターハイブリッドとは基本的に異なった機構で成り立っている。
E-TECHの機構にはほかにも際立っているものがある。エンジンとトランスミッションの間にモーターを挟む1モーターハイブリッドでは、モーターの前後に摩擦板式のクラッチを設けるのが普通である。モーターの前のクラッチはエンジンとモーターを切り離す役目を持ち、後ろのクラッチはトランスミッションの変速のための一時切断のものだ。しかし、このE-TECHには摩擦板式のクラッチはない。
 また、シフトチェンジにシンクロメッシュを採用せず、ドグクラッチ方式としている。摩擦板式クラッチがないのも、シンクロメッシュを廃したのも、構造を簡単にコンパクトに収めるためだと考えられる。
 2モーターハイブリッドでは走行用モーターと発電用モーターは大体同じ大きさ(出力)である。シリーズ走行するときに発電能力が小さいと、駆動モーターに能力があっても長い上り坂などで出力不足を起こすからだ。エンジン・発電機もそれに見合った出力を持っているのが普通だ。だが、このE-TECHではメインモーター(駆動用)が36kW、サブモーター(主に発電用)が15kWと、大きさが大きく異なる。また、絶対的な出力も小さめである。エンジンは1.6L、4気筒自然吸気エンジンで、69kW(94PS)とモーターに比べると出力が大きい。メインモーターとエンジンの出力合計は105kW(143PS)である。その出力を車格から考えてみると、このハイブリッドは、エンジンとモーターが協調して走行するものと考えられる。
 このように、トランスミッションの存在と2つのモーターの大きさの違い、さらに駆動モーターとエンジン出力の絶対値から考えて、2モーターハイブリッドではあるものの、1モーターハイブリッドの性格を持っている。すなわち「1.5モーターハイブリッド」といえそうな機構なのだ。
 実際、試乗インプレッションとしても、高出力高トルクモーターを持った日本の2モーターハイブリッドのようなEVに近い鋭い立ち上がり加速はないが、不足のないトルクを発揮するようにモーターがエンジンを補佐している感じである。

E-TECHのメカニズム

 その機構について説明すると、まずドライブシャフトを含めて6軸がある。そのうち(1)、(2)、(3)の3軸が変速の機能を持っている。3軸式トランスミッションを装備していると考えればよい。
 まず(1)メインモーターの軸は後ろにエンジンのクランク軸がある。これは結合したり切り離したりができる。そして(2)メインシャフトと(3)カウンターシャフトの存在としての軸がある。この3つの軸にドッグクラッチによる変速機構が組まれている。
 (4)の軸はドライブシャフトで車輪につながる。(6)はサブモーター(スタータージェネレーター)で、それとつなげるために(5)アイドラーギヤがある。この(5)アイドラーギヤはモーターの回転を減速したり、回生の場合に増速したりする役目を持っている。

E-TECHの作動

 (1)は前側にモーター、後ろ側にエンジンがあるので、説明の都合上メインモーター側を(1)m、エンジン側を(1)eと区別する。
 (1)mメインモーターの回転は(2)メインシャフト(ギヤボックス軸)、あるいは(3)カウンターシャフトを経て(4)のドライブシャフトを駆動する。(1)eエンジン軸は(1)mモーター軸とつなげて(2)メインシャフトを介して(4)ドライブシャフトを駆動したり、(1)mメインモーター軸と切り離し(3)カウンター軸を介して(4)ドライブシャフトを駆動したりする。
 減速回生時は、(4)ドライブシャフトから(2)ギヤボックスを介して(1)メインモーターへと回転が伝わり回生する。強い回生の場合は、メインモーターに加えて(4)ドライブシャフトから(3)カウンターシャフト、さらに(5)アイドラーギヤを介して(6)サブモーターに回転が伝わり、ここでも回生が行われる。なお、この経路の場合はエンジンとの切断ができないので、回生中もエンジンを連れ回すことになっているようだ。
 ブレーキは回生力を高めるため協調回生とされており、ブレーキを踏むとまずは回生による減速が働く。それだけでは減速しきれない場合はブレーキパッドによる通常のブレーキング減速が加わる。

変速機構とその作動

 変速はドッグクラッチ方式でシンクロメッシュがない。これはバイクのトランスミッションでは普通で、レーシングカーなどでも用いられる方式だ。多段でギヤ比が接近していると回転差が少ないので、シンクロ機構がなくても案外次のギヤに入る。実際、シフトショックなどは全くないといえるスムーズさであった。
 それもそのはずで、E-TECHには仕掛けがある。サブモーターがギヤ挿入前に一瞬発電、または回生のトルクを発生させてドッグクラッチの回転を制御、シンクロの役を果たすようにしているのだ。
 変速段はメインモーター側((1)m軸)に2つ、エンジン側((2)軸(3)軸)に4つのギヤを持つ。これに、それぞれ単独でのギヤ比がプラスされ2×4+2+4=14段。ただし、同じギヤ比になるギヤの組み合わせが2つあるので、実質には12段ということだ。
 以下はルノーのサイトで紹介されているE-TECHの作動動画の動力の伝達を説明したものである。
https://www.renault.jp/about/e-tech/index.html

●エンジンスタート/EVモード★
EV1−ICE0
 (1)m→(2)→(4)
●シリーズハイブリッドモード
 サブモーターでエンジン始動((6)(5)(3)(1)b)→(1)e→(3)→(5)→(6)(発電) 電力⇒ (1)→(2)→(4)
●パラレルハイブリッドモード★EV1−ICE2
 (1)m→(2)→(4) +
 2速:サブモーターでエンジン始動((6)(5)(3)(1)e)→(1)mと(1)e結合(2速ギヤシフト)→(2)→(4)
 3速:(1)eと(1)m切り離し(2速ギヤ抜き)…(3)(3速へシフト)→(4)
 4速:(3)(3速ギヤ抜き)…(1)eと(1)m(4速シフト)→(2)→(4)
●パフォーマンス★EV1−ICE2
 (1)m+(1)b(結合)→(2)→(4)
●エネルギー回生★EV1−ICE4
 (4速走行)…(1)m+(1)e(結合)→(2)→(4)
 (3速へシフト)…(1)m→(2)→(4) & (1)e→(3)→(4)
 (3速回生)…(4)→(2)→(1)m(回生)→(3)→(5)→(6)(回生)
 (0速回生)…(4)→(2)→(1)m(回生)
●回生ブレーキシステム
 (4速走行)…(1)m+(1)e→(2)→(4)
 (3速へシフト)…(1)m→(2)→(4) & (1)e→(3)→(4)
 (ブレーキング)…(4)→(2)→(1)m(回生充電)→(3)→(5)→(6)(回生充電)
 (0速へシフト・エンジン停止)…(4)→(2)→(1)m(回生充電)

E-TECHの分解機構図。3軸のギヤボックス(トランスミッション)と大小2つのモーターを持つのが特徴

E-TECHの作動を説明するための6つの機能軸

EV走行:(1)mメインモーターの駆動力が(2)メインシャフトを介して(4)ドライブシャフトを駆動する

シリーズ走行:エンジンで(6)サブモーターを駆動して発電、その電力でメインモーターが駆動

パラレル走行:(1)mメインモーターと(1)eエンジンとの協調で走行。エンジン側ギヤは2速の状態

減速回生:アクセルオフにより(4)→(2)→(1)mメインモーター、また(4)→(3)→(5)→(6)サブモーター、と2つのモーターで回生


最終更新日:2022/05/22