ウインカが先か?ブレーキが先か?

丸茂 喜高

 右左折を行う際に、ウインカが先か、ブレーキが先か、議論が分かれることがある。道路交通法では、方向指示器(ウインカ)は右左折の手前30mに達した地点と明記されており、議論の余地はないように思われる。しかし、位置で指定されていることで、走行速度によってはウインカとブレーキのタイミングが前後することが、議論を生じさせる一つの要因である(それ以外にあるとすれば、右左折のために道端に寄せる際のウインカを出すタイミングは3秒前であり、それとの関係が議論を複雑にしている)。例えば、右左折時に停止することを前提に、減速度を0.2Gとすると、制動距離が30mになるのは、およそ40km/hである。すなわち、これよりも速度が速いと、30mより手前でブレーキをかけ始めることになり、逆に遅いと、30mを過ぎてからブレーキをかけることになる。

 数字の上では、上記のような関係になるが、議論の根底にあるのは、速度によらずブレーキをかけることの原因と結果の因果関係を、後続車に知らせることの重要性であるように思える。自車の前を走る先行車が大型車でもない限り、その先の状況(先々行車の挙動や信号現示など)を認識できることが少なくない。そのような場合には、先行車だけでなく、その前方の状況も見て予測をしながら運転することにより、安全性ばかりでなく燃費にも好影響を及ぼすことが知られている。予測をしながら運転する、後続車のドライバにとっては、先行車の前方に先々行車が存在すれば、先行車はそれに追従するだろうと予測し、先々行車がいなければ、先行車はそのまま交通環境に従って走行することを予測する。その際、先々行車の減速や前方の赤信号など何の脈絡もなく先行車が突然ブレーキをかけたとすると(急ブレーキでないとしても)、予測をしていたドライバにとっては、先行車がなぜ減速を行うのか、疑問に思うであろう。

 先行車の先の状況が見渡せる代表例として、二輪車が挙げられる。先行車が二輪車であれば、その先を見通せることで、二輪車の将来挙動が予測しやすくなる。実際、タクシー車両に搭載されたドライブレコーダのヒヤリハットデータを100件程度分析したところ、先行車が乗用車の場合よりも二輪車の場合の方が、追突ニアミスに至る過程で車間距離や車間時間(車間距離を自車速度で除したもの。速度を維持した場合に先行車がいた地点に到達するまでの時間)が短いことが統計的に確認されている(一般に二輪車は左寄りに走行する傾向にあり、走行する位置による影響も認められるが、中央付近を走行する場合でも、同様の傾向が確認される)。このことは、先行車よりも前方の状況から、先行車である二輪車が、今後どのような挙動をとるのか予測ができることにより、二輪車の加減速に対する反応時間を短くしていることの証左でもあると言える。

 信号交差点など、ある程度予測ができるところであれば、ブレーキの可能性の一つとして右左折が考えられるが、それ以外の場所で右左折を行う場合には、一般に予測が困難である。そのような場合には、追突されるリスクの低減のみでなく、円滑な交通の実現による環境への貢献も視野に入れて、後続車のドライバのブレーキの反応時間確保のためにも、ブレーキよりも先に、まずはウインカを点滅させてみてはいかがだろうか。


<参考文献>
1.丸茂喜高、風間恵介、大内拓登、加藤悠斗、毛利宏:ヒヤリハットデータベースによる二輪車への追突ニアミスの分析、日本機械学会論文集、Vol.88、No.909 (2022)


最終更新日:2022/06/01