ボッシュの年次記者会見はいつも刺激に満ちている。IoT(Internet of Things=モノのインターネット)もMaaS(Mobility as a Service=サービスとしての移動)も何年か前のボッシュの記者会見で初めて知った。ちょっと恥ずかしかったけど。
毎年、社長が行う業績説明のあと新しく具体的な提案がある。さらに、あまり広くはない会場でトピック別にミーティングが行われる。疑問がある人にとっては願ってもない機会だが、ボクは時に脳みそが爆発しそうになることがある。いずれにしても新しいモノを知るいいチャンスだ。余談だが、欧州企業らしく女性スタッフがイキイキしているのも魅力だ。
リレーアタックを防ぐ画期的システム
今年の最大の目玉は「パーフェクトリーキーレス」といわれる安全なデジタルキー・ソリューションだ。キーレスエントリーの革命だとボッシュは言う。最近話題の新しい盗難方法「リレーアタック」の信号をブロックし、車両への不正アクセスを防ぐ。会場奥の壇上にはフォード・マスタングが陣取り、スマートフォンを持ったスタッフが2名いてこのシステムの実演が行われた。
スマートフォンのブルートゥース経由で通信し、アクセス権をもう一人のスタッフに渡す。結果、待機していたスタッフはドアの開閉、エンジン始動の操作を行うことができる。解錠やエンジン始動のためのキーが不要で、スマートフォンもポケットの中に入れたままでいい。その際、クルマ側は専用アプリであらかじめ登録されたスマートフォンに内蔵されているブルートゥースのチップの電波特性が適合した場合だけ、解錠やエンジン始動を行うようになっている。
日本車にも48Vバッテリー車が登場する
もちろん、この日公開されたニューテクノロジーは他にもいくつもある。
そのひとつが「eアクスル」だ。モーター、インバーター、トランスミッションが一体化された電動アクスルである。パワートレインの効率向上とともに低コスト化もできる。モジュール化にも大いに役立つ。おそらく近未来のボッシュの電動化ビジネスの牽引車となるだろう。
さらに欧州車などに採用されている48Vバッテリー。オルタネーターを利用して再スタートを力強くスムーズに行うのに効果的だが、それだけではない。
「トランスミッションの変速がスムーズになります。変速の時にモーターでしっかりサポートできますから。コースティング(高速道路などでエンジンを切る惰行走行)からエンジンンをかけるときにも役立ちます。もちろんエネルギー回生の面でも有利です。」
パワートレインソリューション部の小西課長が優しく易しく説明してくれた。この秋には日本メーカーが採用するという。
「システムに草むらとかダートとかを教えておけば、白線がなくても入っていけます。アスファルト以外も認識はできる。ただ現時点ではメーカーさんからそういう要望はありませんが。」と、2眼式カメラの説明。
「レーダーは悪天候に強いんですが、ともかく値段が高い。次世代カメラを組合わせるセンサーフュージョンによって信頼性の高い自動運転ができるようになります。」
ただ、この次世代レーダーは検知距離、横と高さ方向の視野角(ともに+15度)が増えた。しかもサイズは約30%とコンパクトに。見えないところで着々と進化しているのだ。
内外を問わずボッシュの業績は相変わらず好調である。日本の2018年の売り上げは前年比10%のアップ、2019年は5%を目指すという。アップした要因はパワートレイン、先進運転システム、ボディコンピューターなどだ。このほかにも商用車やトラックの分野にも注目する。とかく自動車メーカーの動向が話題になりがちだが、それを支えているのは実はこうしたサプライヤーであることが多い。
報告:神谷龍彦
写真:佐久間健
業績などを発表するクラウス・メーダー社長(左)とアレクサンドレ・リーステラー副社長。
スマートフォンのブルートゥースを介して通信し、いま問題になっているリレーアタックを防止できる。
モーター、インバーター、トランスミッションをコンパクトに一体化。EVやハイブリッドに。
右奥が2眼カメラ、手前右が古いレーダーセンサー、左が新世代レーダー。こんなに小さくなった。
最終更新日:2019/07/06