シトロエン C4

樹脂パーツ多用のSUV風ルックス。195/60R18のタイヤは細身ながら大径。

とくにリアは複雑な造形だが、独特なファストバックスタイルが印象的。

シンプルなシフトスイッチ。ステアリングのパドルでMT操作できる。


クッションの構造に凝って、コンフォートさを追求したシート。

1.5Lターボディーゼル。MTモードでは4300rpmぐらいまで回せる。

荷室容積が広いのがシトロエンの伝統。フロアボードの下にまだスペースがある。


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 今年導入されたシトロエンC4は、C4として3代目になるモデルで、ドーム型ファストバックボディが復活したのが印象的。BEVのE-C4もあるが、ディーゼル搭載のSHINE Blue HDiに試乗した。

 お借りした広報車は、走行距離が1万4000kmを超えていた。スタッフによると、足回りは硬さもとれて最高の状態の時期とのこと。この車両はたまたま半年前に2500kmぐらいのときに短時間試乗して、しなやかさに感心していたが、今回はさらにという感じだった。

独特の味のサスペンション

 走り出してすぐにサスペンションがソフトなのがわかる。かといって、負荷が大きくなると腰くだけになるようなヤワなものではなく、芯はしっかりしており、ハイスピードでワインディング路を走るのに長けている。運転が楽しいことに太鼓判を押せるクルマといってよさそう。独特なソフトな路面タッチでありながら、気持ちよく飛ばしていける。このフィーリングを楽しむためだけに乗りたくなるクルマだと思ったしだいで、300kmあまり走ったあと、返却するのが惜しかった。

 C4ではかつてのハイドロニューマチックを想起させるダンパー、プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(HPC)が、C5エアクロスに続けて採用されている。もともとラリーで進化したもので、ダンパーの中にもうひとつダンパーを備える。同じ機構のダンパーを使うルノーのスポーツモデルでは、フルバンプの状態で初めて効くといわれるのに対し、シトロエンの場合はストロークの中間領域でも効いている。C4は、地上高がSUV的に少し高めだが、それでもこのしなやかさなのは、HPCのおかげもありそうだ。

 タイヤも特徴的で、195/60R18という、直径に対して幅が細いものを履いている。燃費対策が第一の理由かもしれないが、乗り心地にも好影響だろうと思う。操舵への反応にはやや鷹揚さがあるが、不安感は全くない。たとえばラリーストなら手荒いハンドルさばきで、ガンガンとコーナーを攻めるのではないかと、ちょっと想像した。

低速トルクが太い

 1.5Lターボディーゼルは、130PS/3750rpm、300Nm/1750rpmのスペック。出力も十分あるが、特にトルクが力強い。アイドリング時にはディーゼルなのがわかる音質だが、スピードが乗るにつれてそれもほとんど忘れてしまう感じ。変速機は旧PSAでおなじみのアイシン製の8速。MTモードもあるので、ワインディングではそれで走りたいが、特段スポーティー向きではないので、変速はあまりシャープではない。ただし低速トルクが充実しているので、シフトをサボり気味にして回転が低いままでも速く走れる。

 C4は走行モードが選択でき、シフトプログラムとともにステアリングの重さが変わる。山道ではNORMALよりSPORTのほうがダイレクト感があり、だんぜん快調に走れる。NORMALではステアリングが軽くなり、工学的にはともかく、心理的にはアンダーステアが強い気がして、芳しくない。ただ、クルマがわかるまで気張って走って気がすんだあとは、やはりNORMALのほうが本来のシトロエンらしさが味わえるのではないかとも思った。太いトルクを活かして、低い回転のまま、ゆうゆうとペースを保って走るのがいちばん良いかもしれない。

新世代シトロエンの指標となる!

 室内はダッシュボードの形状など、奇をてらわずモダンなデザインで、ヨーロッパの大人のクルマという雰囲気。ただ逆台形のシンプルなメーターパネルは、液晶表示が小さいのが少し残念。シートはアンコの素材にも凝ってコンフォートさを追求しているが、いまひとつ身体にフィットしない気がした。ところが試乗の最終日に、中の空気圧を変えて腰のあたりの肉厚を調整できる「電動ランバーサポート」があるのに気がつき、それでフィット感を調節できた。足回りはハイドロ(オイル)だけだが、シートがニューマチック(空気)なので、合わせればシトロエン伝統の「ハイドロニューマチック」だなとちょっと思ったが、もっとも体重だけでは、空気がバネになるほどの圧はかからないとは思う。

 バックカメラが使えるとはいえ、後方視界はよくない。傾斜のゆるいファストバックであるうえ、視界を遮る位置にリアスポイラーがついている。このファストバックスタイルには、1970年代のGSへのオマージュがある。ただGSは空力を追求してフラッシュサーフェイス的なボディ表面だったのに対し、C4は前後ホイールまわりの張り出しが目立つ。空力付加物などもついて複雑な造形で、SUVとは名乗っていないがその志向性があり、力強さが表現されている。あくまでC4は2020年代のクルマだ。

 かつてのGSは、スムーズな空冷4気筒水平対向エンジンを高回転まで回し疾走する醍醐味があった。それに対してC4は、ターボディーゼルの太いトルクで、低回転で静かに疾走する。重心も高そうだ。しかし、GSの雲に乗って疾走するような独特な快適さは、現代的に継承されていると思った。

 C4は上級のC5Xとともに、新世代シトロエンの指標となるモデルだ。ステランティス・グループ内で、シトロエンは今やプジョー、オペルどころか、フィアットとも住み分けが必要になる。そういう状況で、シトロエンは、ヘリテージモデルに根拠を求めてブランドの個性を強調した。シトロエンは実用車ブランドとしては、世界屈指の強力なヘリテージを持っている。今後も、シトロエンらしさを主張したモデルをつくってくれるに違いない。

報告/写真:武田隆

最終更新:2022/09/29