特筆に値する高圧縮比!
2015年8月26日に発表発売されたスズキの「ソリオ」「ソリオ・バンディット」はいろいろな新技術を搭載していたが、今回は新開発の「K12Cデュアルジェットエンジン」について紹介したい。
K12Cデュアルジェットエンジンは従来のK12Bを改良したものだが、まずその改良点を見ていこう。まず注目されるのは圧縮比の12.5という数字。このエンジンがミラーサイクルを採用しているならそれは驚くに当たらない。SKYACTIV-Gの14.0があるし、トヨタのハイブリッド用エンジンは以前から13.5としている。しかし、これらはミラーサイクル(アトキンソンサイクル)を採用したもので、実圧縮比はもっと低いところにある。だが、このK12Cデュアルジェットエンジンは基本的にはミラーサイクルといえるような極端なバルブの遅閉じはしていないという。その意味では12.5の圧縮比は異例に高いといえる。なぜ高圧縮比がよいかといえば、理論的に圧縮比の向上はそのまま熱効率の向上につながるからだ。
旧K12Bエンジンの当初の圧縮比は11.0であった。それをデュアルジェットを採用するとともにクールドEGRで燃焼を改善し、圧縮比を12.0まで高めた。K12Cではそれをさらに0.5アップしたわけである。ではどのようにしてそれをなしたか。圧縮比の上限はノッキング(異常燃焼)の発生で制限されるので、その発生を抑えるようにする必要がある。そのために行なったこととしてまずウォータージャケットの形状見直しがある。これにより燃焼室の特に熱を持ちやすいところ、プラグ周りからエキゾーストバルブ周辺を効率的に冷却するよう水路を改良した。
もうひとつはピストンのクーリングジェットの改良で、ピストン自体の冷却性能も向上させた。長めのノズルによりピストンの狙った位置にオイルが当たるようにしたわけだ。さらに、吸気ポートを従来よりも小径化してより寝かせることにより吸気の流速を速め、さらにピストン形状も最適化して燃焼の改善を図っている。これらにより、ミラーサイクルではないエンジンとしては非常に高い圧縮比を達成している。
シリンダーブロックやクランクシャフトも新設計
デュアルジェット自体はK12Bの時代に取り入れた技術で、このエンジンはスイフトに搭載された。おさらいしておくと、各気筒のインテークポートに2つのインジェクターを装備し、燃料の微粒化と拡散をきめ細かく行ないより良い燃焼を達成する技術だ。 今回のK12Cの進化としてはフリクションの低減も挙げられる。まず、従来はカムが直接バルブリフターを押す直打式だったが、ローラーロッカーアームを介する方式になった。これは摺動抵抗を転がり抵抗にすることでフリクションを低減するもので、目新しい技術ではないがスズキとしては初採用だ。また、補機駆動ベルトにオートテンショナーを設けてベルトの低張力化を図り、抵抗を軽減している。
エンジン自体も軽量コンパクト化されている。シリンダーブロックの形状やクランクシャフトといったエンジンの基本となるパーツも変更され、またEGRパイプ一体構造インテークマニホールドを採用するなど、約4%の軽量化が成されるとともに高さを31mm低めている。エンジンは従来15度傾斜させて車両に搭載していたが、これを5度にした。エンジンを起こせば前後方向のエンジンルームスペースを減らすことができ、その分を室内スペースに振り向けることができる。ただしエンジンを立てればエンジンの高さが高くなるが、ここで高さを低減した意味が出ているわけだ。
連続可変バルブタイミング機構を吸気側だけでなく排気側にも採用したのは旧K12Bからだが、K12Cは現代のエンジンが具備すべき技術はたいてい投入されている。最高出力も最大トルクもK12Bと変らないが低速トルクは上がっている。マイルドハイブリッドと称するISGによるエンジンアシストも加わり、リッター27.8km/Lの高い燃費性能はこのエンジンがしっかり役割を果たしているからだといえよう。
新開発K12Cデュアルジェットエンジン。燃焼の改善とフリクションの低減が図られ低速トルクも増している。
新開発K12Cデュアルジェットエンジン。燃焼の改善とフリクションの低減が図られ低速トルクも増している。
ピストンクーリングジェットは噴射ノズルを長く出し、ピストン裏側の狙ったところに当たるようにされた。
吸気ポートを小径化するとともにより寝かせることで吸気の流動を強化し、ピストン頂面の形状を最適化し燃焼を改善。
カムがバルブリフターを直接押す方式から、ローラーロッカーアームを介して押す方式にしてフリクションを低減。
ISGをはじめとした補機類の駆動ベルトにオートテンショナーを設置することで低張力化し、フリクションを低減
(REPORT/飯塚昭三)