2ドアで、Bピラーがなくて、ウインドーはサッシュレス。さらに付け加えれば、ルーフのラインが細くて美しい、それがメルセデス・ベンツEクラスクーペの伝統だ。初代Eクラスクーペ(C124)は1985年にデビューした。今回登場したモデル(C238)は5代目にあたる。もっとも上記の伝統は1968年に発表されたセダンベースのハードトップクーペに端を発するから、約50年の歴史と言えなくもない。
エクステリアの特徴はフロントグリルのルーバー(サイドライン)が1本になったこと(セダンは2本)と、ボンネットにさほど派手ではないがパワードームが付いたこと。サイドはとてもすっきりした。2本あったキャラクターラインの上の1本が消え、ラインではなく面をより重視した。これをメルセデスは彫刻的造形とアピールする。
「まずはリアシートに座ってみてください」と商品企画の木下マネージャー。なるほど広い。先代に比べて後席はレッグルームが74㎜、ショルダーが34㎜、ヘッドクリアランスが15㎜広がっているという。クーペという外観を裏切るスペース効率だ。インパネは、ふたつの12.3インチディスプレイをひとつの1枚のガラスで覆った水平基調。セダンと大きく変わるところはない。
エンジンは2.0ℓ直4ターボが184馬力と245馬力の2種類、その上に333馬力の3.0ℓV6ツインターボが用意される。セダンにあるディーゼルエンジン車は現時点ではない。
インテリジェントドライブと呼ばれる、自動運転も含めた安全運転支援システムは全車標準装備だ。その中でもとくに注目されるのが「ステアリングパイロット」と「アクティブレーンチェンジアシスト」だろう。前者は、車線がはっきりしない道でガードレールなどを認識して先行車との間隔を維持しながらステアリング操作をアシストするシステムだ。
後者は移動したい車線側のウインカーを2秒以上点滅させると、レーダーで周囲の安全を確認して自動操舵を行う。同じようなシステムはBMW5シリーズにもあるが、日本導入モデルには付いていない。
AMG──612馬力、3.4秒、ドリフトモード、液体エンジンマウント。
同時に発表されたAMG E 63 S 4MATIC+の内容も魅力的だ。今年で創立50年を迎えたAMG(1988年にメルセデス・ベンツ傘下に)、そのチューニング能力は言うまでもなくすこぶる高い。
4.0ℓV8ターボ・エンジンはメルセデスAMG GTと同じタイプだが、パワーは先代比27馬力アップの612馬力。0-100km/h加速は0.2秒速くなって3.4秒。一方、排気量は1.5ℓ減り燃費も向上している。V8エンジンとしては初めての気筒休止機構(1000〜3250回転時)も装備する。
これだけでも十分魅力的だが、+が付いた4MATICの意味も大きい。4MATICはもちろん他モデル同様4輪駆動の意味。「+」は前後50:50から0:100へのシームレストルク配分を表す。これによってリアの駆動力を100にすることができる。その効用は?というと、ドリフトがやりやすくなること。スイッチひとつでこのドリフトモードを選ぶこともできる。
トランスミッションの変速段数は他のモデルと同じ9速だが、単なるATではなく湿式多板クラッチを使ったAMGスピードシフトMCT(マルチ・クラッチ・テクノロジー)を採用している(63シリーズとしては初めて)。レーススタートもできる。
さらに言えば、エンジンマウントが磁性体封入の液体マウント。この結果、通常走行時には柔らかいマウントでエンジンからのノイズと振動を遮断でき、ハード走行時にはマウントを硬くしてロールを減らせる。
ただしこのAMG、お値段は一挙にアップして1774万円。他のEクラスクーペが682万円から1037万円(E400 4MATIC クーペスポーツ)なのと比べても圧倒的に高い。ある意味、ムベなるかな、ではあるが……。
報告:神谷龍彦
写真:佐久間健
ダイヤモンドグリルとシングルルーバー、ボンネットにはパワードーム。迫力をアピールする。
LEDライト内蔵の横長のテールライトはクーペっぽい。トランクは足で開閉できるタイプだ。
長めのノーズからなだらかにルーフへ。キャラクターラインの1本が消えて彫刻的なサイドビュー。
エンジン、ステアリング、トランスミッションを自分の好きなモードにセレクトできる。
クーペとはいえリアシートはかなり広くなった。これなら大人4人ロングドライブもOK。
地道に2.0ℓもいいけど、できればAMGも試してみたい。当然お値段はそれなりにする。