アウディ A3 / S3

アウディの良さをじっくり味ってください

S3セダンは全長4505mm×全幅1825mm×全高1530mm(他グレードより5mm低い)。

パワーもトルクも十分。しかも静かで乗り心地もいい。価格が一挙に662万円に跳ね上がる。

ガラッとイメージが変わったインパネ。基本的に直線的になったが、質感は一層増した。


スポーツバックは全長4345mm×全幅1815mm×全高1450mm。ブリスターをより強調する。

5ドアはワゴンっぽい。トランクは380〜1200リッターを確保。ヘッドクリアランスも増加。

48Vリチウムイオンバッテリーを採用した3気筒1.0リッターターボエンジン。81kWは十分。


※画像クリックで拡大表示します。

 新アウディ3シリーズの注目点は1リッター3気筒エンジン(81kW=110馬力)だ。日本導入アウディとしては初の48Vのマイルドハイブリッドシステム(MHEV))。ベルト駆動式スターター ジェネレーターが再スタートをスムーズにする。このエンジンがアウディに搭載されるのは現時点ではA3だけだが、あとから日本に導入されたVWゴルフ8は1.0だけでなく1.5リッターエンジンもこの方式を選ぶ。このほかに日本に用意されるアウディの3シリーズには2リッター(140kW=190馬力/228kW=310馬力)がある。ただしこちらはハイブリッドではない。さらに今回は日本導入されなかったが、よりスパルタンなRS3もある。

インテリアの方が大きく変わった

 ボディは従来通り4ドアセダンと5ドアスポーツバックの2タイプ。セダンとハッチバック、どちらも数センチ大きくなった。やや大きくなったシングルフレームのグリルよりも、オーバーフェンダー風にデザインされた前後サイドの方が目に新しい。トランスミッションは全モデル7速Sトロニックである。
 グレード展開は、1リッターが30TFSI(税込価格:329万円〜408万円)、2リッターが40TFSI(459万円〜502万円)とS3(661万円)。1.0リッターの駆動方式はFF、2.0リッターはクワトロ(4WD)である。
 エクステリアよりもむしろインテリアの変化の方が大きい。丸形だったエアアウトレットが直線的なデザインになり、センターディスプレイがコンソールに組み込まれ、シフトレバーの形がツマミのようになった。バーチャルコックピットプラス(12.3インチ)はS3以外はオプションだが、インフォテイメント「MB3」は全モデル標準装備である。ヨーロッパ車のフルモデルチェンジは従来のモデルとガラッと印象が変わることは少ないが、3シリーズのインテリアは明らかに一新された。

S3の熟成ぶりに改めて浸ってみた

 1台目の試乗車は真っ赤なS3セダンだった。エンジンは2.0リッター直列4気筒ターボ。、最大トルクは400Nm。車重は1560kgだが、オプションのサンルーフがついていたから1600kgぐらいか。1300kg台のFFのスポーツバックに比べるとかなり重い。さらにS3の駆動方式がクワトロであることが影響しているのも間違いない。
 パワーとトルクは予想通り十分すぎるほどだった。しかし、こんなに静かで滑らかだと試乗までは予想していなかった。パフォーマンス・データからはとても想像できない。しかも乗り心地も驚くほどいい。4.8秒(メーカー公表値)という0⁻100km/h加速タイムはセダン系としてはすごい。
 エアコン下の左端のドライブセレクト・スイッチかオートドライブセレクト画面の「車両」にタッチするとオートが現れ、「エフィシエンシー」「コンフォート」「オート」「ダイナミック」「インディビデュアル」の5つのモードを選択できる。オートドライブセレクト画面は今や珍しくないが、物理的スイッチはミソで、これなら走行中でもスイッチに目を移すことなく操作できる

「オート」がベストだが、「コンフォート」でもいける

 「ダイナミック」はエンジン回転もシフトも一番おいしい所を使う。ハンドルも重く敏感になる。その分エンジン音は大きい。一般的には、パワーと燃費のいいトコ取りをしてくれる「オート」がおススメだ(最初はこの設定になっていた)。もっとも、ハンドルにもアクセルにもかすかな遊びが感じられる「コンフォート」でもほとんど不満はなかった。
 走行中にアクセルを離すとニュートラルになるコースティング機能のついた「エフィシエンシー」では時に反応が鈍いことがある。燃費を稼ぐにはそれくらいはガマンしてくださいということだろう。エンジンサウンドやレスポンス、ハンドリングの反応速度などを個別に設定保存する「インディビデュアル」もいいけど、まあそこまでこだわることもないか。
 ドライブモードの選択さえ間違えなければまるで高級セダンのような走りと快適さが味わえる。先に述べたように乗り心地の良さは驚嘆に値する。よく舐めるような乗り心地というが、それ以上だ。まさに吸い付くようで、多少の悪路もいとわない。ただ、止まり写真の撮影用にクルマを前後に微妙に移動させる際には、2ペダルのSトロニックに起因すると思われるジャダーが出ることがあった。

3気筒を意識させない静かさと滑らかさ

 2台目の試乗車A3ハッチバックは最近よくある1st edition。これは30 TFSI advancedをベースにスポーツバックに375台、セダンに125台、S3に125台限定で用意される。ボクに与えられたのはちょっと新鮮な感じのするアトールブルーボディだった。
 3気筒ターボエンジンはパワーは必ずしもビッグではないが、3気筒の割にはスムーズで静かだった。ただ、S3に試乗した後では若干非力さを感じさせられるシーンもあった。その代表的なものは、いったんアクセルを緩めてからの再加速、そして高速での加速だった。

一番売れてるのはA3かと思いきやQ2も凄い

 アウディA3は1996年にVWゴルフのアウディ版というカタチでデビューした。今回で4代目になる。当初はいかにもゴルフのエンブレム違いのハッチバックという印象だった(仕上げは当時からA3のほうが上)が、今やエクステリアにもインテリアにもそうした出自を伺わせる要素は皆無に等しい。あえて言えばMQB(ドイツ語でモジュールキットを意味するModulare Quer Baukasten の頭文字をとったもの)プラットフォームとトランスミッションぐらいか。
 一方、スポーツバージョンのS3もA3と同じ年にデビューしたが、日本導入は2001年とずいぶん時間がかかった。このころは欧州デビューと日本導入の間にはかなりの時間差があるのは珍しくなかった。のちにハッチバックのほかにセダンが追加されてボディは大きく2タイプになった。ただし、3ドアハッチバックは2020年に廃止された。
 アウディはここ何年かしきりにWRCで活躍したクワトロ(1980年〜)に対するデザイン的リスペクトを謳う。たしかに前後フェンダーのふくらみは実際の寸法以上にオーバーを意識させられる。顔もそう。これがアウディの言うスポーティかつダイナミックなエクステリアなのかもしれない。
ところでA3/S3は日本のアウディにとってどのようなポジションなのだろうか? アウディからはちょっと曖昧な答えが返ってきた。
 「販売台数はQ2と並んで2〜3割というところでしょうか。Q2はこちらの予想に反して女性も多いんです。やっぱり最近はSUVが強いということかもしれません」。少なくとも試乗会会場では明確な答えは得られなかった。いずれにしてもアウディは再びプレミアムコンパクトの階段を一段登った。

報告:神谷龍彦
写真:佐久間健

最終更新:2021/07/12