キャデラック XT4 スポーツ

もうアメ車とは呼ばせない。想像以上の進歩ぶり

走りはいたって軽快。バイブレーションやノイズもほとんどなし。気筒休止も装備する。

エクステリアデザインは若手が中心になったという。ライト処理になどにその影響が。

全長4605mm×全幅1875mm×全高1625mm。タイヤはコンチネンタルの245/45R20。


上)フロントに劣らず新鮮なリアのデザイン。荷室積載量は637から最大1385リットル。 下)ゆったりした穏やかなデザイン。前方に人なども発見するとシートが振るえて警告する。

上)リアシートのレッグルームは1004mm。驚くほどではないが余裕のあるほうだ。 下)メーター表記は原則として日本語。ヘッドアップディスプレイにはタコメーターも出る。

上)ATは9段。変速ショックは少ない。写真のようにスイッチやダイアルも多いのがいい。 下)高出力=230ps(169kW)最大トルク=350Nm スムーズで静かな2リットルターボ。


※画像クリックで拡大表示します。

 「初のコンパクトSUVです」──キャデラックは言った。その言にミスはない。でも、全長×全幅は4605×1875mm。少なくとも小柄ではない。ぱっと見のサイズはトヨタのRAV4に近い。ただここでいうRAV4はあくまでも最新モデル(5代目)のことだ。RAV4は1994年、長さ3705×幅1695mmのボディでデビューした。

侮れないキャデラックSUVの末弟

 1988年に登場した日産シーマによって5ナンバーの壁が崩されたとはいっても、“新人”RAV4の全幅はしっかり”ワク“に収まっていた。まさにコンパクト。時代を感じる。SUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)という言葉自体が今よりはるかに業界的用語だった。What‘s SUV?みたいな。
 コンパクトとは言っても、そこはアメリカ車。1875mmの横幅は決して狭くはない。試乗する前は、国産車や欧州車の多くが肥大化したから相対的に小さくなっただけだろうと思っていた。サイズを比べれば、エスカレードが5382×2059mm、XT6が5060×1960mm、XT5が4825×1915mmとなる。XT4はキャデラックSUVファミリーの末弟なのである。
 ところがこの末の弟(妹でも一向に構わないが)、すこぶる出来が良かった。キャデラックは、若手デザイナーによるエクステリアの斬新さをまずアピールする。それはそれとして否定はしない。試乗車のボディがオレンジ系というのもキャデラックとしては珍しいことだ。荷室容量は通常時で637リッター、後席格納時で最大1385リッターに拡大できる。グレードは、プレミアム(税込み価格:570万円)、スポーツ(640万円)、プラチナム(670万円)の3種類、試乗車はスポーツである。

こんなに“フツー”なのに、完成度に隙はない

 乗り込んで最初に感じたのは室内の“フツーさ”だ。悪い意味ではない。それだけ自然にアメリカらしさをアピールしているということだ。この自然というのが大切。本革シートやインパネの質感も高い。なおかつギラギラしていない。ほどよく力が抜けている。メーター類も見やすいし、初めて乗っても違和感が少ない。ちょっと意地悪くパネルの裏側にも触れてみたが、しっかり仕事がしてあった。
 メーター上部が隆起した立体的な造形のインスツルメントパネルの素材感も上々である。新世代のインフォテインメントシステム「キャデラックユーザーエクスペリエンス」が搭載されている。基本的に各種情報はここの9インチ・タッチスクリーンで認識・処理する。
 もちろん、ナビや音質調整もここに含まれる。しかしもっと評価したいのはその先だ。デジタルとアナログがうまくミックスされていること。機能にもよるが、デジタルだけでなく直感的にアナログ操作もできる。具体的に言えば、スイッチがあったりダイアルがあったりする。実は最近こういうモデルは少ない。古典的ユーザーも視野に入れなければならないアメリカなればこそかもしれないが、デジタルに不慣れな世代にはありがたい。先日もスマホのスイッチをイライラして叩き続けているおじさんを見た。あまり真剣で怖そうだったからアドバイスはやめた。

スムーズでパワフルで静か。ストレスフリー

 「このエンジン、何リットル?」。隣のカメラマンが尋ねた。
 「2リットル」
 「じゃあターボ付きだね」
 そう、エンジンは2リットル直噴直4だ。当然ターボはついている。最高出力は230馬力(169kW)、最大トルクは350Nm。4気筒を2気筒ずつにまとめた計2本のマニフォールドをふたつの流路を持つタービンハウジングに導き、排ガスの干渉を最小限にとどめる。だからターボラグの少ないスムーズなエンジン回転と効率的な過給が行える。4気筒のうち2気筒は低負荷時には休止する。燃費へのお配慮もぬかりない。完全な新設計である。
 加速もいい。最初の加速を抑える傾向のある一部のヨーロッパ車と違ってアクセルオンに連動してスピードを上げていく。ストレスは感じない。低回転時のターボラグも少ない。さらにオートマチックは9段である。変速ショックは急加速時以外ほとんど感じさせない。
 もっとも印象的だったのは加速自体が軽快なことだ。これにはライバルたちの車重が1.8トン台なのにXT4は1.7トン台であるという事実も関係しているかもしれない。ノイズや振動は一切なし。ほぼ全域にわたって静かだ“

進化まざまざ、GMの歴史を変えられるかも

 乗り心地はキャデラックにしては少し硬いと最初は感じた。グレードがスポーツだからかとも思ったが、そんなことはないらしい。ただ、この硬さは最初のアタリだけで、すぐに収束する。最近よく食レポで言われる“表はカリッとして中はジューシー”という評価に通じるものがある。ハンドリングも悪くはない。ただ、低速ではほどよく柔らかいが、高速では軽すぎると感じることがあった。
 駆動方式はツインクラッチAWDと呼ばれるシステム。ひとつめのクラッチは前輪と後輪の間に、もうひとつは後輪左右の間に設置されている。要するに、前後のトルク配分は100:0から50:50までの可変式、後輪はいわゆるeデフの役割を果たす。

 キャデラックXT4、これまでのアメリカ車のマイナスイメージをほぼ一掃する仕上がりだった。ちょっと自分の不明を恥じたくらいだ。考えてみればアメ車と呼んで、デカい、安っぽい、大食いといった悪印象抱く(例外ももちろんある)前はアメリカの車は逆に憧れだったのだ。今回の評価が日本での急激な販売増に結び付くという保証はない。保証はないけどその実体は間違いなく進歩している。それだけは自信をもって言える。

報告:神谷龍彦
写真:佐久間 健

最終更新:2021/03/14