※画像クリックで拡大表示します。
850i xDriveから乗り換えたとき少しほっとした。1700万円のラグジュアリースポーツカー、それも全幅が1900?もあるモデルはボクにはちょっとばかり荷が重い、正直言って。だから、そちらの試乗記は大ベテランの小早川隆治会員にお願いすることにした。乞うご期待!
Z1→Z4へ、30年間の変遷紆余曲折物語
もっともニューZ4だって幅は1865?もある。この点では8シリーズと大きな差があるわけじゃないと思いつつ、850同様に低いM40iのシートに潜り込む。最近のSUV系モデルに慣れた身には乗車が想像以上にきつかった。
アクセルを軽く吹かす。ブオーン、ブオーン。オープン。過激すぎない上品なエンジンノートが響く。ゆっくりスタートする。アクセルにやや力をいれる。1600rpmから最大トルクを出すから加速はあくまでも力強い。
何といっても定評のあるBMWのシルキーシックス、その滑らかさは現在でも比類ない。乗り込む時に抱いた軽い違和感が快感に変わる。「ワオーッ!」思わず声が出た。そうコレ、コレ、コレ。感涙の三重奏。
Z4は1989年にデビューしたZ1に端を発する。マスコミにはその前年に現地で公開され、独特なドアシステム(下に引き込む)などで熱狂的に迎えられたが、販売はあまり振るわず1991年に生産を中止する。
そのあとを引き継いだのがZ3(1996年〜2002年)だ。アメリカ・サウスカロライナ州で生産され国際試乗会もアメリカで行われた。続くZ4の生産は2003年〜2016年。時期的にはZ3の後継モデルにあたるが当初はZ3の上位モデルというポジションだった。その意味もあってサイズも拡大された。生産地はドイツのバイエルン州。
2006年にはロードスターにクーペが追加される。しかしモデルチェンジを受けた2009年からボディはロードスターとクーペを合体したクーペカブリオレに統一される。このあたりからピュア・スポーツ性が薄まり、販売も芳しくなく2016年に一旦消える。
そして今回の復活。トヨタのスープラとの共同開発という隠し技はあるが、これは現時点でスポーツカーを残す最善の方策だろう。どちらも1社だけでこの分野に踏み込むにはリスクが高すぎる。
そこそこ大きくなったのにホイールベース短縮
基本パーツはエンジンも含めてBMWが受け持った。デザインやチューニングはもちろん別々だし、スープラはクーペ、Z4はロードスターという決定的な違いがある。
でも、たとえばZ4がクーペを追加することはないのだろうか?
「ありません」日本語堪能なプロダクトマネージャー、マーク・A・アップルトン氏の答えは明確だ。では、トヨタとの共同開発でやりにくいことはなかったのだろうか?
「基本設計まではトヨタと徹底的に話し合いましたが、そのあとはそれぞれ独自にやりました。トヨタの動向は私たちもインターネットで知ったくらいです。」と。途中からは同床異夢か。
エクステリア。デザインは個人的嗜好の問題が強いから誰でも触れられる。ということは触れても意味がないということになるが、あえて触れればZ4の方が好感度は高い。キドニーグリルやサイドまで回ったヘッドライト処理は別として、ボリュームを下に持って行ったエアスクープに新しさとBMWらしさを感じる。
ソフトトップ化、電子制御サス……絶妙の操安性
全長は85?、全幅は75?、全高は15?拡大している。もう膨らませるのはいい加減にしたら、と言いたいところだが、ホイールベースは逆に25?も短くなっている。何のために? おそらく俊敏性とハンドリング性能を改善するためだろう。
実際、コーナーでの操安性はすこぶるいい。どことなく緩かった先代とは別物だ。動きが鋭いだけでなく接地感も素晴らしい。これには50:50の前後重量配分、Mスポーツ・ディファレンシャルや電子制御サスペンションも効いている。
ハンドリングが優れているのに乗り心地は穏やかだ。大きなギャップでも跳ねない。ステアリング自体は重め。程度にもよるが、スポーツカーは基本的にはその方がいい。
ソフトトップ。これによる低重心効果も大きい。特筆すべきは、その開閉時間。たったの10秒だ。速い! しかも、開閉途中こそ化粧のようにあまり見せたくない部分も露呈するが、最終的には極めてきちっと収まる。完璧なメイクアップだ。
開閉は50km/h以下なら走行中でもできる。ルーフが閉じていようが開いていようがトランク容量は281ℓ。この手のロードスターとしては広い。ついでに言えばシートの後ろにわずかながら物置スペースがある。こういうのも、十分とは言えないが意外と便利だ。
エンジンは3ℓ直6ターボ(250kW=340ps)のほか、2ℓ直4ターボ(145kW=197ps)。
トルクはともに低回転から高回転まで維持するタイプ。乗りやすい。速い(0-100km/h加速は4.6秒)。価格はM40iが835万円、20iが566万円〜665万円。
報告:神谷龍彦
写真:佐久間健