アウディ A8 55/A7スポーツバック 55
Audi A8 55/A7 Sportback 55

いいクルマだ。ほっこり気分で帰京

ちょっとアクが強すぎた感もあったシングルフレームグリルだがさすがに馴染んできた。全幅1945?は決して狭くはないが、慎重にドライブしていれば慣れる。

A8はオーソドックスなセダンフォルムを採る。リアのランプは水平基調でまとめ上げた。エンジンは4ℓV8(460ps)と3ℓV6(340ps)。ともにターボだがA7はV6のみ。

2つのディスプレイを採用してスイッチ類を極力追放した。おかげでインテリアはとてもすっきりした。基本デザインはA7とそんなに変わらないが、より新しい印象。


全高は1405?、全長は5mをわずかに切る4975?。4ドアクーペらしく低く身構える。それでも居住性はわずかに改善された。ショルダーラインは後端で少しハネ上がる。

クワトロに由来するというリアのブリスターフェンダーはこのA7の方が目立つ。120km/hを超すとリアスポーラーがせり上がってくる。ワゴンの実用性も備える。

A7のインパネは少しドライバーの方を向く。それだけA8よりもパーソナル性が高いからだ。もともと定評のあった質感は今やまったく文句のないレベルだ。


※画像クリックで拡大表示します。

 初秋の軽井沢。木々は東京より一足早く色づき始めていた。しかし、町並みは夏の混雑を忘れ切ってはいなかった。
「白糸の滝方面は混んでいます。浅間山の方は少し時間がかかります」
 二つの推奨コースを説明する係の人の言葉。混雑の中では撮影が難しい。浅間方面に行けば撮影時間が厳しくなりそう。さて、どうするか。結局どちらも選ばず、今はほとんど使われていない旧中山道に向かった。ここならコーナーはイヤになるほどある。ただ、幅の広いA8とA7のボディ幅が少し気にかかる
 A7スポーツバックの幅は1910?、A8にいたっては1945?もある。これはライバルのメルセデス SクラスやBMW 7シリーズの1900?よりも広い。最初はやはり気を使う。トラックも通る道だからもちろんすれ違えないことはない。でも慎重にドライブしていると幅の広さには慣れてくる。
 全長はA8が5170?(130?長い“L”も設定されている)。A7は4975?と少し短い。全体としてはA7の方がA8より少し小さい。A7は4ドアクーペとしてスタートしたモデルであり、先代は日本でもわりとよく売れた。ただし、3ℓモデルではなくて2ℓの方だ。新型A7にも近い将来700万円台の2ℓが追加される。
この2車、親子ではなく、しっかり者の兄とオシャレな弟という感じである。基本プラットフォームは共通だ。「発表会と試乗会を一緒に開催したのは、たまたま日本での発売時期が近かったからです」とアウディは説明する。

48Vのマイルドハイブリッド採用
 さて、A8とA7スポーツバック、ともに新機構が多い。それを簡単にまとめておこう。
プロダクトマーケティング担当の山本文悟氏によると、ポイントは、●デザイン●クワトロ●マイルドハイブリッドの三つになる。
 両車のエクステリアは、フロントもリアももちろん異なる。シングルフレームデザインだけでなく、当然ながら前後ライト形状も違う。サイドから見ればグラスエリア下部が後ろで少し反りあがっているのがA7、A8はストレートだ。ただ、A7は一見ハッチバックには見えない。
 クワトロはA8が前後配分可変式(前70:後30〜前15:後85)の常時4WDなのに対してA7はFF走行もできる4WDだ。クワトロの伝統はメカニズムだけでなくブリスターフェンダーとしてデザインにも活かされているという。が、この辺りのデザインは巧みで特に意識させない。
 マイルドハイブリッドドライブシステム(MHEV)に関してはメカニズムそのものよりもむしろ48V仕様にしたことの方が意味深い。たとえばオルタネータースターターがベルトでクランクシャフト(エンジン)を回す。この時モーターの力が大きければ大きいほど(今回は60Nm)有利なのは言うまでもない。また、オート・ストップ/スタートとともに実際にはエンジンのON/OFFを何度もくりかえしているのに、始動はとてもスムーズでまったく分からない。アイドルストップで働く速度も従来は4km/h以下から22km/h以下になった。燃費も良くなる。
 このほか、回生ブレーキによる発電、その電力によってステアリングやブレーキの油圧をサポートする。また50〜160km/hで走っているときにアクセルペダルに足をのせるとコースティング走行(惰行走行)が始まる。従来はアイドリングしていたが、新型では最長で40秒間エンジンが完全に止まる。もちろんすべての回路が48Vになったわけではなく12Vの回路も残されている。
 エンジンはA8が4ℓV8ターボ(460ps)と3ℓV6ターボ(340ps)、A7はV6のみ。A8が8速AT(トルコン付き)、A7は7速DCTである。超低速で多少違和感があったDCTもダイレクト感をキープしつつ随分滑らかになった。試乗車配分の関係でV8の A8には乗れなかったのは残念だった。

スムーズで静かで十分速い
 走り出してまず感じたのはA8、A7、ともに静かでスムーズなことだ。それも半端じゃなく──改めて高級車の良さを味わった。A7は標準がスポーティなSラインだから荒れた路面では足の硬さが顔を見せる。太めのタイヤを選んだ影響があるかもしれない。と言っても一般的な舗装路ではまったく問題はない。一方、A8は高級セダンらしくソフトで快適だ。だからと言って曖昧さはない。
 同じV6のA8に比してA7は速い。A7の車重はA8に対して1040kg以上も軽い。この差は大きい。A7の0-100km/h加速は5.3秒。4ドア車としては十分速い。
 A8もA7も4輪操舵(AWS)が用意されている(一部グレードではオプション)。最大で2°切れる同位相は中高速での操縦安定性に寄与する。最大5°まで切れる逆位相はコーナリングに貢献。大型のクルマの場合はUターンの時にとくにありがたい。このAWSのおかげで最小回転半径は50?短くなる。大柄のボディから想像するよりも実際にははるかに小回りが利いた。しかもディスプレイに表示される画像の精度が高いためギリギリまでバックできる。
 インテリアではその先進性がさらに増す。A8もA7も水平基調ですっきりしているが、その印象をさらに高めているのがMMIタッチレスポンス・コントールシステムだ。センターコンソール中央部に10.1インチ、その下に8.6インチのタッチ式ディスプレイがある。スイッチの数を極力減らそうとした結果だ。個人的にはワンスイッチ・ワン機能のほうがいいのだが、時代はそんなこと許してはくれない。“ガラケー”はあっという間に過去に去る。
 このタッチパネルには特徴がある。それはスクリーン表面に指紋が残らないようにコーティングされていること。さらにタッチすると(0.8秒間)微妙に振動し、音が出るということだ。これは新しい!とぼくは思った。しかし、指を何度タッチしてみても振動は感じられなかった。ほかの人がやったら感じたというから、ぼくの指先感覚が衰えてきたためだろう。クリック音の方はかすかだが聞こえた。この方が操作しているという実感がある。あまり目立たないがアウディの良心かもしれない。

技術的にはレベル3を達成しているが……
 走行中にその存在を意識させられることはほとんどないが、このアウディには自動運転レベル3を視野に置いた新装備がある。それは、量産車としては世界初の「レーザースキャナー」と「zFAS」と呼ばれるセントラルドライバーコントローラーだ。
 レーザースキャナーは赤外線パルスを前方145°の範囲に発振し(従来A8は35°)その反射光を検知、周辺の物体と形を正確に探知する。スキャナーの大きさは握りこぶしぐらいで、A8にはグリルセンター下部に、A7にはグリルの右側に付いている。両車ともレーザースキャナーを含めて合計23個のセンサーを持つ。これらを統合制御するのがzFASである。これも新しい技術で、自動運転レベル3を実現するには欠かせない。 
 アウディはすでにレベル3の技術的開発を発表しているが、認定されている国はまだない。それは技術というよりもむしろ法律面などの問題が大きい。ただ、カリフォルニアのように州単位ではOKの所もあると言う。今回のアウディもやはりレベル2だ。
 レベル2からレベル3へ進むのは技術的にはともかくその周辺環境を整えるのは容易ではない。いずれにしてもA8とA7は現時点で最も優れた自動運転車のひとつである。
 アウディのスローガンはよく知られるように「Vorsprung durch Technik(フォアシュプルング ドゥルヒ テヒニク」=技術による先進だ。A8とA7はまさにそれを具現したクルマだった。その地平は予想に反して人間くさかった。少しほっこりして軽井沢を後にした。

報告:神谷龍彦
写真:佐久間健

最終更新:2018/09/24