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自動運転対する関心はアメリカでは低い〜J.D.パワー調査

神谷 龍彦

 「自動運転=Autonomous」に関する話題を聞かない日はない。この傾向は一昨年あたりから一段と強くなった。しかし、アメリカのテスラやボルボの事故の報告が入ると少し風向きが変わってきたような気もする。
 正面から自動運転に反対する人は少ないが、同時に自動運転にはとくにこだわらないという声もある。その論調は国によって、あるいは自動車メーカーとIT系メーカーとでも差がある。さらに完全な自動運転の実現時期となると、これが結構バラバラで正直よくわからない。ここにカーシェアリングや所有などの概念が絡んでくるとややこしい。
そんな折、J.D.パワーから自動運転を中心とするセミナーの案内が届いた。同社(本社:カリフォルニア)は今年で設立50年を迎え、日本法人(東京都港区)も社長が変わったばかり。今回のお誘いはそのあたりの影響があるのかないのか……。
 J.D.パワーは自動車や保険などを中心としたシンジケート調査(業界のベンチマーク調査)などでよく知られる会社だ。同社の評価を広告に使う企業も多い。

自動運転の高い敷居をどう乗り越えていくか
 自動運転は5つのレベルに分けられる。目下の課題はいまのレベル2からレベル3へのステップアップだ。すでにアウディやキャデラックはその実現をアナウンスしている。
 レベル3ではドライバーは通常時ならハンドルから手を離せる。ただしクルマが指示したら自分で運転しなくてはならないし、事故の責任はドライバーが負わなければならない。
 レベル4になると道路や天気などの一定条件下で自動運転が行われる。条件が変わらない限りドライバー運転に関与しなくていい。でも条件が変わったら自分で運転しなくてはならない。レベル5は完全な自動運転。ドライバーは乗っていなくてもいいし事故の責任も負わなくていい。
 どこもレベル5を最終目的にあげる。しかしそのアプローチは自動車メーカーとIT企業とでは大きく異なる。自動車メーカーが既存のクルマをベースに一歩一歩技術を積み上げていこうとしているのに対して、IT系は一挙にレベル5を目指している。極端に言えば交通革命を起こそうとしているかに見える。
 それも一理ある。考えてみてほしい。完全な自動運転化ができれば、ディズニーランドや野球場、ショッピングモールなどの膨大な駐車場は不要になる。いつでもタクシーを呼べるから“流し”も消える。自宅の駐車スペースだってなくてもいい。その分、ビジネスにせよ趣味にせよ自由に使える時間が増える。生活が変わる。
 ただし、これは最近トヨタなどが盛んに言い出したモビリティ──自動運転車を含めたカーシェアリングやレンタカーなどの利活用──が前提となる。とすればクルマの「所有」に対する意識の問題は大きい。
 「クルマを運転できなくなった時が養老院に入る時だ」なんかの機会にアメリカで実際に聞いたことがある。 
 「オートマなんか運転してたらどこか悪いんじゃないかと思われるよ」こう言うイタリア人に会ったこともある。
 所有に関する底辺意識は欧米で大きく異なる。国土の広いアメリカはクルマでの移動を前提に社会が成り立っている。ヨーロッパは国によって差はあるが基本的には運転が好きな人が多い。 
アメリカ人の7割近くが自動運転嫌い
 法規や保険だけでなく、自動運転の普及には乗り越えなければならない壁は多い。完全なカーシェアリング・サービスが実現された場合、クルマの保有意欲はどうなるか? J.D.パワーによれば、日欧(ドイツ)では約6割の人が保有意欲がなくなると答えるのに対してアメリカではこの数値は7割以上になる。それだけ保有にこだわっているということだ。 
 クルマとの密着度は圧倒的にアメリカの方が高い。通勤・通学に毎日利用するというのは日本27%、アメリカ49%、毎日個人や家族の利用に供するというのは日本12%、アメリカ37%。それなのに7割近くのアメリカ人が自動運転車は嫌いだと答えている。自動運転は平気だという人は3割にも満たない。なぜか?
 完全自動運転のクルマに関する懸念事項。日本で最も高いのは事故の際の法的責任(36%)だが、アメリカでも(50%)、ドイツでも(31%)もっとも懸念するのは技術面での不良なのだという。では。技術的に解決されればいいのかといえば、どうもそうではないらしい。ここが難しい。
 自動運転がますます拡大してゆくのは間違いない。レベル4までの自動運転は2025年以降急速に広がってゆくが、レベル5となると拡大は不透明だとJ.D.パワーは予測する。その一方で、電気自動車やハイブリッドがいくら増えてもエンジンはなくならないだろうとも予測する。なぜなら発展途上国でエンジン対する要望が強いからだ。
 と、1時間半ほどセミナーは終わった。この中で印象的なのはJ.D.パワー側が分からないことは分からないとはっきり言ったこと。そしてもう一つある。それはアメリカにおけるクルマの評価だ。
米国でのイメージは韓国車が圧倒的に高い
 日本市場。日本車の商品評価(不具合の少なさ)は欧州車に勝るが、魅力度では劣る(レクサスは例外)。ところが、舞台をアメリカに移すと状況はガラッと変わる。日本ではほとんど評価されていない韓国車が一挙に上位に躍り出る。その中でもっとも故障が少ないのがGenesis(ヒュンダイの高級車ブランド)、二番目がKia、ポルシェを挟んでその数ブランドあとにヒュンダイが来る。いまやこの3ブランドはすべてヒュンダイ傘下にある。
 日本は韓国車に対しては厳しい評価をしてきた。それだけにこのランキングはショックだった。理由は何か? J.D.パワーによれば、最近は工業製品の良し悪しから操作性や使い勝手の良し悪しに評価のポイントが移ってきているという。しかもGenesisは商品魅力度でもポルシェに続き、レクサスのはるか上を行く。アメリカだけの事情かもしれないが、これは大いに注目すべきことだ。
 J.D.パワーは説明する。「サービス業の成否は最終的にはヒトである。優秀な人材がCX(総合的な顧客体験価値)の始まりであり、終わりでもある」と。最後はマーケティング会社らしい結論になったが、全体としては好感の持てるセミナーだった。
報告:神谷龍彦
写真:J.D.パワー ジャパン

日本での商品評価。横軸が不具合の多寡(右ほど少ない)。縦軸が商品としての魅力度。

アメリカでの商品価値。赤字はすべて韓国車。個人的にはこの結果は予想もしていなかった。

J.D.パワー ジャパンの新社長・山本浩二氏。セミナー前半を担当した。

オートモティブ部門役員の木本卓氏。説明は明快で分かりやすかった。分からないことを分からないとはっきり言っていたのにも好感が持てた。


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