このところのボッシュの業績は驚嘆に値する。
「2017年のボッシュ・グループの売り上げは過去最高の781億ユーロ。前年比で6.8%の伸びです。この間の世界の自動車販売台数は+2.4%ですから、それを大きく上回ります。販売増の中心はモビリティ・ソリューションズです。とくに成長が著しかったのはアジア太平洋地域です」
「日本も好調でした。売り上げは10%増。クルマの伸びは約5%でしたからこちらも大幅な伸びでした。パワートレイン関連と先進安全運転支援分野を含むセーフティ・システム、それにとナビーゲーションなどが好業績の要因です」
「日本メーカーへの売り上げは+11%でした。2013年から2017年まで毎年ほぼ二桁アップの成長を遂げています。日本での自動運転の公道試験は2015年から実施しています」
6月6日、ボッシュ本社、森川典子副社長は晴れやかに同社の成果を説明した。
とくにボッシュに限ったことではないが、自動車メーカーが最新テクノロジーとして発表するものは、サプライヤーと共同で、もしくはサプライヤーが独自に研究・開発するケースが多い。とりわけ自動運転や安全運転関連はそうだ。だから、サプライヤーにとっても開発や提案、発表のタイミングはとっても重要である。
記者会見では例年通り多くの新技術が発表された。その中で注目したいのはボッシュ・ロード・シグニチャー(精度:数センチ)に衛星測位システムを使った「自車位置推定技術=ビークル・モーション and ポジション・センサー=VMPS」に取り組んでいることだ。これは従来のカメラやレーダーだけでなく衛星情報も使って自車の位置を特定するシステム。雪国のようにレーダーやカメラでは対象を認識しにくい場面で威力を発揮する。
もう一つの注目デバイスはCDR(Crash Date Retrieval)だ。日本では昨年発売された。そのデータ元となるのがEDR(Event Date Recorder)である。EDRは事故の5秒前から、車速、エンジン回転数、操舵角、アクセル開度、ブレーキの作動状態、車両にかかったGなどすべての電子データを記録する。いってみれば飛行機のフライトレコーダーのようなものだ。EDRに関してボッシュは17年の実績を持つ。
このEDRに記載されている事故データを取り出しパソコンなどにつないでレポートをつくるデバイスのひとつがCDRだ。これによって多重衝突でも原因が明確になるという。ボッシュは自動車メーカーへはもちろん、警察や保険会社など事故調査機関への訴求に余念がない。ハードだけではなく、CDR解読のアナリストの教育にもトヨタなどと一緒に力を入れ始めた。CDRの解析には資格が必要だからである。
EDRとCDRのような読み出しツール搭載の義務化が検討されているのは自動運転車両に対してである。国としては欧米や日本、中国などだ。日本の場合は2020年の改正法案成立を目指しているという。
このほかにも、自動運転、コネクテッド、シェアリング、ライダーアシスタンス・システム、Plantect(ハウス栽培農作物向けの病害予測サービス=発表は昨年)など多くの新分野への取り組みがアナウンスされた。
自動運転についていえば、東京-モーターショーで発表されたメルセデスのコンセプトカー「F15」はボッシュの技術力が大きく貢献している。ただし、あれはまだレベル4であり「いつでも、どこで」のレベル5までは相当時間がかかりそうだ。ただ、ボッシュの強みは「自動運転だけでなく、部品に関してはほとんどすべてを自社で賄えることです」と自動運転システム開発部の千葉久ゼネラルマネージャーは語った。むべなるかな。
レポート:神谷龍彦
写真:佐久間健
まず好調ぶりをアピール。素晴らしい数値が並ぶ。
ビークル・モーション・アンド・ポジション・センサー。衛星も使って自車の位置を確認。雪国に朗報。
CDR。事故5秒前に遡ってEDRに記録されたデータを読み込み、PCなどでレポートをつくる。
昨年7月からボッシュ(日本)の社長に就いたクラウス・メーダー氏。業績的には順調なスタート。