安くて効果的。着実に進化し続ける"スマアシ"
ダイハツでは12年より先進安全装備「スマートアシスト」(以下スマアシ)を装備しているが、今回体験した「スマアシIII」はその最新となるもの。16年12月にタントに搭載されたのを皮切りに、現在ではミラ・イース、ムーヴ、ムーヴキャンバスにも搭載されている。このスマアシIIIの特徴は、6万円という低価格ながら多くの機能を備えていること。歩行者対応の衝突回避支援ブレーキや前後誤発進抑制、オートハイビーム、車線はみ出し警報、先行車発進お知らせ機能などの機能を有している。ハードウェアとしては、フロントガラス上部に装着された小型のステレオカメラ+バンパー部に装着されたソナーセンサーというシンプルかつコンパクトな構成で、多くの車種に搭載できるのも大きな特徴である。
さて今回の勉強会では、このスマアシIIIが搭載されたミラ・イースを用い、衝突回避ブレーキと前後誤発進抑制機能を体感した。
まず衝突回避ブレーキは、障害物に見立てたダミーに向かって走行、ブレーキを踏まずそのまま接近すると警報に続いて自動的にブレーキが作動し、ダミーの手前で停止する。約20名の会員がそれぞれ同乗体験を行ったが、ダミーに衝突するといったトラブルもなく、システムの信頼性は高い。これまで衝突回避ブレーキはいくつかのメーカーで体験しているが、スマアシIIIの場合、個人的には比較的近い距離まで接近して停止する印象である。
なおスマアシの衝突回避ブレーキの作動領域はどんどん向上しており、初代スマアシが時速30キロ、スマアシIIで時速50キロであったのが、このスマアシIIIでは時速80キロまで対応している。初代スマアシの頃は街中の極低速域という限られたシーンでしか作動しなかったのが、現在では通常の走行域のほとんどをカバーするから頼もしい。またスマアシIIまでは歩行者は検知・警報に留まっていたものが、スマアシIIIでは自動ブレーキの対象になったことで、予防安全性能を高めているのも大きなポイントである。
確かに効果的な前後誤発進抑制。介入時間設定には課題も
一方、特にRJC会員の関心を集めたのが誤発進抑制機能である。近年、ペダル踏み間違い事故が多く発生しているが、これは高齢者も少なくないRJC会員にとっても他人事ではない。それだけに熱心に試してみる会員の姿が目立った。このペダル踏み間違い事故には各メーカーも積極的に取り組んでおり、現在ではこの機能を備えているモデルも多い。しかし前方に加えて後方の誤発進抑制まで備えているモデルはまだ少数派である。その中でダイハツは、業界に先駆けて初代スマアシから前後誤発進抑制を備えており、その取り組みは特筆できるところである。(軽自動車では他にN-BOXのみ)
まず体験したのは後方誤発進抑制。輪止めに停めた車両の後方にダミーを置き、ブレーキを踏む感覚で、力強くアクセルペダルを一気に踏む。装置がなければ輪止めを越えて勢いよく後ろに発進し、ダミーに衝突するシーンだ。がしかし、スマアシIIIの場合はソナーセンサーで後方のダミーを検知し、エンジン出力を抑制。アクセルペダルを踏みこんでも出力が絞られるので、クルマはゆっくりとしか動かない。そこで事故を防ぐとともに、ドライバーは踏み間違いに気が付くというわけだ。ちなみに全体でシステムが介入するのは全体で8秒間。最初の3秒間は大きく出力を制御し、その後、ゆっくりとエンジンの出力を上げていくという。
前方の場合も動作は同じ。こちらはステレオカメラで前方の障害物を検知し、システムを作動する。前方約4メートルの障害物まで検知し、その範囲内でアクセルペダルを強く踏み込むと踏み間違いと判定し、エンジン出力を抑制する。カメラで検知するため、ポスターや本棚がないガラス壁などでは検知できない場合もあるとはいうものの、実際によく事故が発生しているコンビニ等ならば、多くの場面で事故防止に役立つことが期待できよう。衝突回避ブレーキのように派手な動きがないので見た目には地味で、映像でも分かりにくい機能だが、その効果は非常に大きい。実際に体感することの重要性を強く感じた体験会であった。ただ、その設定時間については多少課題が残るところだ。
報告:鞍智誉章
撮影:怒谷彰久
衝突回避支援ブレーキのテスト。障害物までの距離は約50cm。車内からは衝突しているような印象。
軽自動車としては珍しい後方誤発進抑制システム。強くペダルを踏むと3秒間は出力を抑制。
前方に対する誤発進抑制はあまり違和感ないが、後方抑制はフルに効く3秒間のあと8秒後までペダル操作に徐々に反応するようになるから多少慣れが必要かもしれない
ダイハツの「スマートアシストIII」の実力を試す(2)
低コストで支援システムを。軽自動車にこそ必要
スマートアシストIIIは、最小サイズのステレオカメラを採用。歩行者や障害物を検知する能力が従来型より向上し、作動する速度域や、前走車との速度差が拡大された。こういった衝突回避支援システムは、カメラやセンサーの数を増やし、コストをかければ、性能は当然向上し、システムは完璧に近づく。しかしコストに制約のある軽自動車では、その中でユーザーに必要なことを検証し、実用化している。軽自動車は高齢者が生活のために乗ることも多いから、高級車よりも支援システムの必要性が高いといえる。衝突や誤発進を抑制・軽減するシステムがあることで、運転への不安が減るだろうし、装着車は事故率が大幅に減るそうなので、実際多くの人の命、生活が救われている。
ダイハツとしては、もちろん車を売るためでもあるだろうが、その普及に努めており、今回のような体験試乗会を一般ユーザー向けに開催しているという。軽自動車はそれ自体切実な存在だけれども、搭載される技術も切実に必要なものばかりなのだと今回あらためて思った。(武田 隆)
ダイハツの「スマートアシストIII」の実力を試す(3)
わずか6万円で装備できるというのはうれしい。
近年、高齢者の軽自動車による誤発進事故が多発しているため、軽自動車の多くに、追突防止装置や誤発進防止の装置が採用された。普通車は、立体カメラにミリ波レーダーを組み合わせているが、ミリ波レーダーを使用すると価格的に高価になるので、ダイハツはソナーを採用。精度の面で少々問題があるが価格を優先した。また誤発進した場合の制動をブレーキではなくエンジンの出力を抑える方式を採用。アクセルを急に踏んで誤発進した場合、多くの人がビックリしてブレーキを踏むのを一瞬忘れてしまうので、3秒間エンジンの出力を抑えて、気持ちを落ち着かせようというのである。その後徐々に出力が回復して8秒で普通の出力に戻る。が、高齢者の場合、3秒間で普通の精神状態に戻るか少々疑問である。踏切等での脱輪を想定して8秒で普通の出力に戻すという考えだが、若者用と高齢者用の時間の切替えを考えてはいかがだろう。
また、追突防止装置は30km/h以下で停止するとの事だが、もっと手前で危険を知らせる警報音が欲しいと思えた。いずれにしろ、これらの装置がわずか6万円高で標準装着されたのは嬉しい限りである。(井口駿吾)
ダイハツの「スマートアシストIII」の実力を試す(4)
自分のクルマでは体験しにくい体験会に感謝
衝突回避支援システムというとスバルの「アイサイト」が思い浮かぶ。1999年に商品化されたが、2010年に「ぶつからないクルマ?」のキャッチコピーで展開された広告キャンペーンと10万円という手ごろな価格設定が市場ニーズにぴったりはまって90%近い装着率を生む。軽自動車に導入したのはダイハツが最も早く、2012年に「スマートアシスト」の名前でムーブに搭載された。その後進化を遂げ、2016年には世界最小のステレオカメラを採用し、対車両に加え、軽自動車初の歩行者対応の自動ブレーキ機能、車線逸脱警報、ヘッドランプのハイ/ロービーム自動切換え機能などを追加した「スマートアシストIII」を6万円という魅力的な価格で提供した。
新型ミラ イース体験会での感想。誤発進抑制制御機能は、なるほど、自分で誤発進したときには対応できそうだなと納得できた。しかし、8秒後には回転が上がるので、それまでに誤りに気付いてくれればよいが。自動ブレーキについては他車でも何度か経験しているが、止まり方が乗員をびっくりさせないよう配慮された、絶妙なものであったのが印象的だった。初速30km/hでの確認がしたかった。(当摩節夫)
ダイハツの「スマートアシストIII」の実力を試す(5)
万能ではないが確かに便利。搭載車両の識別をもっと簡単に
今回の体験会では、衝突回避支援システムと前後誤発進抑制制御機能を体験させてくれた。衝突回避支援システムは相手が車両であれば先行車が50km/hで走行している場合に80km/hで接近しても衝突回避できる設定となっているという。「この条件で先行車が走行して行ってしまった時(追尾対象がなくなった時)にも完全停止するのですか」
「完全停止します」
「追突される心配がありますね」
「そのときはエマージェンシー・ストップ・シグナル(ESS)を作動させれば良いでしょう。検討してみます」
ダイハツミライースにはESSが標準装備されているのである、作動させるべきでしょうね。
前後誤発進抑制制御機能はスロットルペダルを大きく踏み込んだ際には、瞬時にスロットルバルブポジションがデフォルト値になる(ブレーキ作動はしない)ようであるが、長くスロットルペダルを踏み続けると車止めを乗り越えようとするほどのトルクを発生させるようだ。操作ミスをどの程度回避できるかはこれからの事故実態が示すことになるのであろう。
今回、体験はできなかったが、オートハイビームの設定はありがたい。高齢歩行者の死亡事故事例から、運転者がハイビームを有効に活用していない実態が観察され、「オートマチックハイビームの普及」を2013年のITRDA研究発表会で提案させて頂いたからである。
スマアシIIIが装備される車両は8〜9割ということであるが、搭載された車両の識別は可能となっているのだろうか。
国土交通省は予防安全装備の効果検証をせよと言ってくるであろうから、警察庁の事故データ(ITARDAがハンドリング)から、予防安全装備の有無で事故率に差があるかどうか検証する事が必要になると思われるので、事故データから装備の有無が識別できるように準備されていると都合が良いというのが質問の主旨である。
型式(型式指定番号)や類別区分番号などでは識別できず、車台番号と搭載有無との紐付けから判定する以外の方法は無いということである。ITARDAの検索費用が高くなりますね。
これには国土交通省の認定申請手続きの煩雑さも影響しているように思われる。装備の有無がわからない認定申請を受け付けて、後で効果の検証をせよと言う。部署が違うのかも知れないが同じお役所のやることなのかな。(沼尻到)
CAN通信(赤線)の上がセンサー部。ここで得られた情報から判断して下部の制御を実施する。
自動ブレーキ支援システムは前方のクルマに追従するとともに歩行者にも対応する。路面の滑りやすさには未対応。
一般道を走ることが多い軽自動車にこそオートハイビームは必要だろう。ライトの下の 小さな突起はセンサーのひとつ。
最終更新日:2017/09/24