羽田についに飛来。Hondaジェット。
本田宗一郎の夢を実現した瞬間

丸山 誠



 初夏を思わせる東京の青空に鮮やかなレッドとホワイトにカラーリングされた機体が現れた。4月23日14時30分、ホンダジェットがついに羽田空港に着陸。ホンダの創始者である本田宗一郎の夢がかなった瞬間だ。
 本田宗一郎は半世紀以上前に空に羽ばたくことを宣言。すでに陸上では2輪と4輪で成功を納め、海では船外機などのホンダ製品が愛用されている。陸海までは進出していたが、空の製品がなく、ホンダにとって航空機の事業分野進出は悲願でもあった。以前から開発を進めていた小型ビジネスジェット機である、ホンダジェットという製品をようやく持つことができ、これで念願の陸海空に進出したわけだ。
 ホンダは4輪への進出時にも苦労したが、航空機分野への道のりも苦難を極めた。ノウハウがないうえにクルマとは異なる安全性と認証など高いハードルがあった。そのため航空機の基礎研究からホンダジェット量産機を生産するまで、約30年もかかった。事業化を決定するまでにプロジェクト自体の存続を検討した時期もあった。
 開発製造の拠点はアメリカ・ノースカロライナだ。ビジネスジェット機の最大マーケットである北米で、子会社のホンダ エアクラフト カンパニーが開発製造を担当。機体を含めホンダ製の小型ビジネスジェット機だが、ジェットエンジンまで完全自前とはいかなかった。開発当初はジェットエンジンもホンダ独自で開発していたが、メカニズムだけではなく認証など幅広い航空機事業のノウハウを持つGEとの共同開発となった。
 エンジン製造会社はGE Honda エアロ・エンジンズで、型式名はホンダ自前のエンジンの流れをくむHF120。ホンダジェット最大の特徴が、エンジンを翼の上に付けることだ。航空機の常識からかけ離れたレイアウトで、あえてこのスタイルを取るのもホンダらしい。翼にエンジンをマウントするため胴体後部の支持構造が不要になり、内部スペースを最大限に利用でるのがメリットだ。さらに高速飛行時に発生する衝撃波や空気抵抗を抑える効果もある。

コンパクトだがゆったりした7人乗り


 機体の全長は12.99m、翼幅12.12m、全高4.54mとビジネスジェット機のなかでもコンパクトだ。キャビンは全長5.43m、全幅1.52m、全高1.46mと、ちょっと細長く低い乗用車並みのサイズで、4人がゆったりとくつろげるシート配置にしている。他社の機体はエンジンを胴体後方に付けているためキャビンの前後長を大きくしにくいが、ホンダジェットは機体後方の強固な構造材が不要になった分、長くすることができた。最大仕様は乗員1人に乗客6人の合計7人乗り。このクラスではコンパクトなサイズながら、スペース効率の高さによって7人乗りを実現。
 このサイズでは通常、対面対座した人の足が交差するが、ホンダジェットは足が当たらないほど広々している。ここが大きなセールスポイントでもある。さらに後部には立派なトレイルームを設置。小型機の多くはカーテンや簡易的な囲いですませることが多いが、両開きのパーティションを閉めると床面までパネルが下りる。完全な個室状態にできるため、女性乗客にトイレの使用をためらわせないのだ。
 ホンダジェットは、ホンダらしい常識破りのチャレンジ精神があったからこそ実現できたわけだ。現在、欧米での販売価格は何と約5億4000万円。同クラスの機体と比べ性能や燃費、維持費などが有利で、競争力があるという。すでに欧米では100機以上を受注していて、まもなくユーザーに手渡される予定だ。
報告:丸山 誠
撮影:佐久間 健&丸山 誠


最終更新日:2015/05/01