シュルシュルシュル……ドッカーン。ケーブルが検体を引っ張る音に続いて天地を揺るがすような大音響が鳴り響く。よく交通事故を伝えるニュースで「雷が落ちた時のような」と表現されるが、本当である。当然、その破壊力たるや凄まじく、クルマはいわゆる全損を想わせるほどの痛々しい潰れ方だ。本当は自動車を運転するすべての人に見て欲しい。一度でもこの現場に立ち会ったら、結果の重大さを考えて無闇やたらに飛ばすことなど、恐ろしくてできなくなるはずだから。
ここは茨城県つくば市にある財団法人・日本自動車研究所のクラッシュテスト専用施設。国土交通省と独立行政法人・自動車事故対策機構(略称NASVA=ナスバ)が毎年、公正中立の立場から実施・公表している自動車アセスメント評価(略称JNCAP=ジェイエヌキャップ)の平成23年度後期分試験を報道関係者に公開、我々RJCのメンバーも招かれたものだ。この日検体に選ばれたのはトヨタ・プリウスαとアウディA1で、それぞれオフセット前面衝突試験と側面衝突試験に供された。検体は恣意性を排除すべく、一般のユーザーと同様に市場から直接調達されるとのこと。このため施設借り上げ料を含めた試験費用は1台当たりざっと2000万円前後に上ると言われ、車種選定に当たっては販売実績の多寡が考慮される。このほか、歩行中の死亡事故が乗車中のそれを上回る現状を鑑みて、歩行者脚部保護性能試験とチャイルドシート前面衝突試験がそれぞれスズキ・スプラッシュとタカタ04-i fixを検体として行なわれた。
そもそもクラッシュテストとはどんなものなのか? オフセット前面衝突を例に採って試験方法を紹介しよう。人はいざクルマがぶつかるという時になんらかの回避行動を取るのが普通である。現実の事例でもそれが大半を占めることから、現在では対向車や障害物に対して横方向に60%ずれた位置(オフセット前面衝突と呼ばれる所以)で衝突させるのが日本を含めて世界の主流となっている。衝突速度は64km/h。なんとも中途半端な数字に見えるが、実は64km/h=40mph(マイル/時)×1.6であることに気付けば、クラッシュテストそのものの歴史が分かったも同然である。運動エネルギーの大きさはほんの数km/h違っただけで大幅に異なるから、誤差の最小化には細心の注意が払われ、冒頭のケーブルはバリアの僅か数十cm手前で初めて切り離される。その結果、運転席と後部座席に乗せたダミーの頭部、頸部、胸部、下肢部の傷害値と車体変形量を計測し、一定の算式で割り出された綜合点数を基に5段階で評価されるのがJNCAP自動車アセスメントというわけだ。結果は以下のホームページで広く公表されている。
国土交通省:
http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/02assessment/
(独)自動車事故対策機構:
http://www.nasva.go.jp/
※(写真:道田宣和)
オフセット前面衝突試験後のプリウスα。プリウスαは「電気自動車等」に属するため、同時に「衝突後の感電保護性能」もチェックされた。
側面衝突試験。我ながらまずまずのショットと自己満足。ピンの甘さはお許しあれ。なにしろ質量950kgの台車が55km/hで突っ込み、横っ腹に衝撃を受けたアウディA1はこの瞬間の後も時計回りに水平旋回して行く、まさにその過程なのだから。プリウスαやスプラッシュ、タカタのチャイルドシートともども、これらの結果は4月にホームページ上でアップされる予定。