

インスターの上級グレードが搭載するのは49kWのバッテリーと84.5kW/147Nmのモーターの組み合わせ。最高速度150km/h、0-100km/h加速10.6秒、一充電走行距離458km、WLTCモード電費8.4km/kWhを公称する。
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昨年、RJCのインポート・カーオブザイヤー第3位となったのがヒョンデのスポーツEV「アイオニック5N」だったのだが、今年になってそのヒョンデが発売を開始したのがSUVタイプのコンパクトEV「インスター」だ。横浜市内を舞台にした試乗会に参加して、その出来栄えを確かめてみた。
インスターのインストラクションとして紹介されたのは、スモールEVの概念を変える「革新的モビリティ」。ユーザーの毎日にジャストフィットして、無理や無駄なく、最短距離で生活を豊かにできる「オールマイティ・スモールEV」との説明だ。
3つのオールマイティ
そのオールマイティさの一つ目が、カッコかわいいユニークデザインと絶妙なボディサイズ。全長3830mm、全幅1610mm、全高1615mm、ホイールベース2580mmというその体躯は、日本の狭い道でも扱いやすい5ナンバーサイズ(枠いっぱいまででない点に注意)で、高さやホイールベースを除くと1979年に発売された4代目70系カローラとほぼ同じ。日本の一般道路の8割以上が1970年ごろに整備されたもので、当時99%のクルマが5ナンバー枠であったことからいかにそのサイズが道路事情にあったものだったかがわかる。ちなみに現在では30%が5ナンバー、70%が3ナンバーなのだとか。
デザインの特徴は、ヒョンデEV共通のピクセルグラフィック使ったターンシグナルランプとその下の丸型ヘッドライトを見合わせたユニークな顔が第1で、バックランプもピクセルグラフィックと丸型ライトを取り付けて前後共通のイメージで仕上げている。
サイドはSUVらしいボリューム感のあるフェンダーと、ピクセルモチーフのアルミホイールを組み合わせてSUVらしさを強調。離れた位置から全体を眺めると、車幅の割には背の高いクルマという印象で、そのユニークなデザインは、日産ジュークなどを彷彿させる独特の存在感がある。
ボディカラーは試乗したモデルで且つ訴求色の「バタークリームイエロパール」のほか、「アトラスホワイト」「トムボーイカーキ」「シエナオレンジメタリック」「アビスブラックパール」の5色を用意する。一方のインテリアは写真のベージュモノトーンのほか、ブラックモノトーンも用意される。
オールマイティの2つ目が「自由に使えるスペースユーティリティ」をうたうそのインテリア。4座のフロントはベンチシート仕様(センターにカップホルダーあり)で左右の移動が簡単に行えるほか、シートヒーターやベンチレーションを装備。背もたれが前方に倒し込めるのでそれをテーブルがわりに使ったり、リアシートも倒せばかなりの長尺物を搭載できたりする。2座の分割式リアシートはスライド(トラベルは前後とも80mm)が可能で、前後14°ずつ動かせるリクライニングアジャスターを装備する。ホイールベースの長さとセンタートンネルなしという足元の広さがあって、リアのパッセンジャーが窮屈さを感じることはまずなさそうだ。
オールマイティの3つ目は「高いEV性能と安心の運転支援システム」。こちらは横浜市内に実際に走り出して確かめてみよう。パワートレーンは、容量42kWhのバッテリーと出力/トルクが71.1kW/147Nmのモータを組み合わせて最高速度140km/h、0-100kmh加速11.7秒の「カジュアル」(284万9000円)、49kWのバッテリー、84.5kW/147Nmのモーター、最高速度150km/h、0-100km/h加速10.6秒、一充電走行距離458km、WLTCモード電費8.4km/kWhの「ボヤージ」(335万5000円)「ラウンジ」(357万5000円)があり、今回試乗したのは上級グレードの「ラウンジ」だ。充電時間も早く、150kWの急速充電器ならば30分で10%〜80%まで充電できる。
日本向けの改善多数
走り自体はこう言ってしまっては身も蓋も無いけれど、みなさんご想像通りのいわゆる電気自動車そのものの走りで、静かで他の車をリードできるそこそこの速さもあり、必要十分と言ったところだ。
興味深かったのは、インスターはグローバルモデルなのだが、日本向けとしてあちこちに丁寧なチューニングが施されているところだ。まずは足回り。低速域で走ることが多い日本の道路事情に合わせてサスペンションの設定を柔らかめにして、街中などでの乗り心地を改善している。これは韓国内ですでにインスターに乗った先輩ジャーナリストさんも証言されていて、乗りはじめた瞬間に足の違いがわかったそうだ。ちなみに試乗日は風速14m/sの強風が吹き荒れる日で、ベイブリッジ通過中には背の高い車体がかなり煽られてしまい、そのトレードオフの現象も見られたのだが。
またADASも日本向けにチューニング。HAD(ハイウェイドライビングアシスト)では、グローバルモデルがコーナ旋回中に少し外向きの状態が長い点を改善。早めに鼻先が内向きに向くように設定するとともに、レーンアシストでなるべく車線内の中央をキープするよう調整。急なコーナーの多い首都高などでも安心して使えるようにしている。さらにNSCC-C(ナビゲーション・ベースド・スマートクルーズコントロール)も、コーナーの曲率に合わせた車速調整を早い段階で行うように変えている。グローバルモデルとの違いは体験できないけれど、みなとみらい〜ベイブリッジを2周する間、これらが全く問題なく使えることがわかった。
10.25インチのLCDメータークラスターと、同じサイズのセンターメータのグラフィックや使い勝手も優秀だ。4つあるドライブモードはステアリング左下のボタンを押して変更。メータのグラフィックもそれに合わせて変わるし、新たなキュービックモード表示も追加されている。
回生ブレーキは左右のパドルシフトを使って「レベル0」からワンペダルの「i PEDAL」まで選択が可能。また右パドルを1秒間長押しするとAUTOモードに切り替わり、先行車やナビの情報をもとに、その強度を調整して停止までサポートしてくれる。筆者は結局このモードを多用した。
「ブルーリンク」によるワイヤレスでのソフトアップデート、デジタルキー、車両や充電状態の把握など、慣れれば使い勝手がとても良くなるのは、この分野で進んでいる韓国車の特徴。ナビ画面も精細で、音声認識もしっかりと伝わる。少し前に乗った某車に備わる回転式のナビが、「画面が大きいだけか・・」と思わせるほど、インスターのナビが使いやすかったと思ったのは筆者だけでは無いはずだ。(報告/写真:石原彰)