BMW i3
航続距離を一挙にアップ。価格据え置きで約400kmは凄い

 BMWは世界でも日本でも好調だ。「8月の販売実績は、世界で前年比5.7%、日本では17.2%、1から8月だと世界では5.5%、日本では11.5%のアップです」。BMW Japanのペーター・クロンシュナーブル社長は9月27日、新しい「i3」の発表会でそう言った。
 前日の燃料電池車の発表といい、今回のi3(EV)の改良といい、ドイツのプレミアムカー・メーカーの未来を見据えた戦略は想像以上に積極的である。燃料電池車はトヨタとの提携を活用し、得意な電気自動車は着々と進化させる。言葉を換えればしたたかである。もう一度言葉を換えれば、それだけ生き残りに必死なのだ。
 さて、今回のi3、一般的にはモデルチェンジというほどではない。エクステリアはもちろん、一新したというインテリアだって仕様の多様化を除けば大きな変更はない。
 変わったのは走行距離だ。これまでのi3は229mmだった。それが一挙に70%ほどアップして390mmに。航続距離を伸ばすための発電用エンジン、レンジ・エクステンダー(オートバイ用の674cc=38馬力)を使えばさらに121mm伸びて511mmに達する。「どうだ、これなら文句ないだろう」というBMWのドヤ顔が見えそうだ。
 率直に言えば、走行距離を伸ばすこと自体は大して困難なことではない。たとえばテスラのようにバッテリーを大きくすればことは足りる。しかし、それは一方で価格のアップをユーザーに強いることになる。日産のリークのようなモデルにとっては、価格のアップはどうしてもクリアしなければならない課題なのだ。 
 BMWはこの問題を解決した。これまでのi3のスペースを何ら犠牲にすることも、価格を上げることもなしに、リチウムイオンバッテリーの改良で対応したのだ。エライ! もっとも価格据え置きとは言え、リークに比べればもともとの価格が高いという一面もある。(499万円〜607万円)。
 しかし、BMWの環境への取り組みは半端ではない。i3そのものが比類ないほど革新的なのだ。
 まず材料。プラットフォームはアルミ、骨格はカーボンファイバー、そして外板はプラスティック。さらに、観音開きなのにサッシもBピラーもない。リアドアを開けるにはフロントドア開けて内部の操作をする(ちょっと面倒だ)。タイヤ(BS製)は前155/70R19、後175/60R19という、アメリカ人が見たら驚きそうな超スリムトレッド。バッテリーは床下だから動きは安定している。
 何よりも新しいのは、ワンペダル・ドライブというコンセプト。アクセルペダルを戻せば回生ブレーキによる減速が始まる。街中ではブレーキペダルに足をやることなくアクセルワークだけでかなり走れる。微妙なアクセル操作が要求されるが、オーナーの評判はいいそうだから慣れの問題か。
 170馬力の出力、0-100km/h加速7.3秒のパフォーマンスを含め、以上の特徴は旧i3と共通のモノだが、専用のChargeNowカードによって全国に約1万4000か所あるNCSのネットワーク(急速充電=5500か所)を1年間無料で利用できるなどのサポート体制も今回から充実させた。また、ライプティヒエ工場では、敷地内にある4機の風車によって生産用の全エネルギーを供給するなど企業ぐるみの省エネ対応も進んでいる。  一方で燃料電池、さらにこの進化型電気自動車、BMWが幅広い戦略を採る理由としてクロンシュナーブル社長は「どんな要求にも応えられるようにしておくためです」。そう、BMWに限らず、これはいま世界の自動車メーカーが付きつけられている命題なのだ。
報告:神谷龍彦
写真:植木 豊 イラスト:BMW

i8と同じブルーのボディカラーも加わった。ショートトレッドタイヤはブリヂストン製。

BMWの実績とサスティナブル・モビリティ・コンセプトなどを語るクロンシュナーブル社長。

観音開き。リアシートは思ったほど狭くはないが長距離はキツイ。車内はけっこう明るい。

最初から電気自動車として開発。強度と軽量性最重視の素材選び。車重は1260kgに抑えた。

インテリアデザインは変わらないが、仕上げはナチュラル重視の3パターンに増えた。

リアのデザインもとくに変更なし。それでも十分に個性的である。どことなく未来っぽい。


最終更新日:2016/10/01