アウディのQ(SUV)シリーズの最高級モデルが発表された(発売は9月3日)。Q8と呼ぶ。ネーミングからも想像できるようにポジショニングはQ7の上になるが、Q7との違いはもうひとつはっきりしない。Q8の価格は992万円と1102万円。Q7は2ℓが812万円、3ℓQ6が938万円。当然プライスはQ8の方が上だ。
ただ、ボディは全幅こそQ8が勝るものの、全長と全高はQ7の方が大きい。大雑把に言えばQ7は旧タイプのSUV、Q8はA8やA7などと並ぶ新世代SUVということだろう。だからフロントグリルも従来の6角形から新たに8角形のシングルフレームにした。デザイン的にもSUVらしいマッスル感にあふれる。車高はQ7よりも30mmも低く目立つ。ドアはフレームレスを選んだ。これはSUVではアウディだけだ。室内のデザインはサイドライン基調ですっきりしている。
いわゆる流麗なクーペスタイルではなく──
「このプロジェクトは6年前に始まりました。エクステリアデザインで一番悩んだのはルーフです。Q7のルーフラインを滑らかにしようという案もありました。でもそれじゃあBMW X6などと同じになってしまう。」
「ではどうするか? そこで出てきたのがパッケージそのものを変える方法です。流れるようなクーペスタイルではなく、力強さを主張しようと。とくにCピラーの形状を大切にと。だからといって居住性は犠牲にできない。実際に乗り込んで確かめてください。」
「ここでもスポーツクワトロのデザインにリスペクトを払いました。クワトロブリスター・フェンダーを活かして前後のフェンダーを外に張り出し、フロントマスクもブラックのイメージにしました。」
この日のためにドイツから来日したエクステリアデザイン担当のフランク・ランバーティ氏はそう語る。この人、プレゼンテーションの声も大きく、とっても元気が良かった。
とかく流麗なスタイルを求めがちな最近のデザイン界にあって、常に独自性を追求するアウディの姿勢は称賛できる。同時に1980年代のラリー界を席巻したスポーツクワトロがアウディにとってどれほど大きな存在であるかも再認識させられた。
発表会場で実車を見た限りではブリスターフェンダーはランバーティ氏が言うほどには目立っていなかったが、たとえば真正面から見るとその膨らみがよく分かる。一方、リアランプはA8などと同じサイドラインを強調したもので、これはこれでいいのだが、フロント部の力強さとは若干違和感がある。
これを違和感というなら、スイッチを極力廃しセンター上下にタッチディスプレイを配したダッシュボードも同じで、間違いなくすっきりはしたがSUVとしてみればやり過ぎの感もある。ただ、ぼくたちがどう思おうとアウディは今後ともこのデザインを採用していくだろう。バーチャルコクピットがそうであったように。
A8のテクノロジーを忠実に投入した
エンジンはA8などにも採用されている3ℓV型6気筒ターボのみ。最高出力は250kW(340ps)/5200-6400rom、500Nm/1370-4500rpm。低回転からこれだけの大トルクを発生するのだから約2200kgの車重にとって不足はないだろう。
全モデルとも、A8など同様に48Vを電源とするマイルドハイブリッドシステムだ。結果として、22km/hからのエンジンストップとスタートを可能とするとともに、最大で12kWというエネルギー回生能力を備えた。また、緊急時にクルマを自動的に走行車線内に停止させる「エマージェンシーアシスト」をアウディとして初めて装備した。
サスペンションの進化も著しい。セットオプションだが、後輪を最大5度操舵するAWS(オール・ホイール・ステアリング)も選べる。これにより通常は6.2mの最小回転半径を5.6mまで縮めることができる。さらに、A8で初導入された「カーブストーン・アシスト(パーキングの際に縁石への接触を避けるのに貢献)」機能もMMI(マルチ・メディア・インターフェイス)に表示される。
最低地上高は210mmだが、アダプティブ・サスペンションを選べば、車高を+50mmから−65mm、つまり計115mmの範囲で調整できる。オンロードでのダイナミックなハンドリングとオフロードでの走破性、そのどちらも簡単に楽しめるのだ。
デザインだけでなく機能面でも新しい──それがQ8であり、アウディの近未来の具現像だ。
報告:神谷龍彦
写真:佐久間健
Q7よりもはるかに逞しいフロントビュー。男性的で何かに挑戦したくなるようなデザインだ。
リアのライトはA8やA7と似ている。フロントに比べると優しい。これがアウディの新しい後姿。
パノラマサンルーフはデビューパッケージラグジュアリーに標準装備。前後2段階、換気も行える。
センターのMMIタッチレスポンスは、上が10.1インチ、下が8.6インチ。基本的には水平基調。
全車マイルドハイブリッド(48mm)。駆動方式はセンターデフ付きの最新かつ伝統のクワトロ。
タイヤは275/50R20。デビューパッケージSラインは285/40R22(写真)。デビューパッケージモデルはアダプティブ・エアサスペンションを標準装備。車高とダンピングを無段階で自動調整する。