ボルボ・ディーゼル

デンソーやら、アイシンAWやら。ボルボの乾坤一擲

ほどよくスポーティ。よく言われるけど、運転中には音は気にならない。アイドリング時はそこそこ。

加速は低速から十分。コンパクトなボディと相まって扱いやすい。しかもライバルたちよりも安い。

今回の試乗コース(都内)では正確な操縦性の良否は確認できないが、一般走行では文句なし。


デンソーと共同開発の新ディーゼル・エンジン。8速ATがアイシンAW製というのもうれしい。

デザイン的には内外装ともに大きな変化はない。従来はやや高めだった価格もリーズナブル。

こちらはV60Rデザイン。ゆったりした乗り心地はプレミア感あり。それなのに加速はかなりのもの。


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 それにしても大胆なことをやったものだ。主力車種の約90%にディーゼルエンジンンを一挙に設定した(T4やT5などのガソリン・エンジンもある)。具体的に言うと、V40、V40クロスカントリー、S60、V60、XC60の5車種。残るのは70と80シリーズだが、これらはボルボの本音はともかく、さしあたり外して考えても大勢に影響はない。
 新採用されたクリーン・ディーゼル・エンジンはD4と呼ばれ、各車のグレード名にはすべてD4が付く。T4やT5のガソリン・エンジンとともに、ボルボの新世代パワートレーン「Drive-E」シリーズを構成する。2リッター、4気筒ターボで、パフォーマンスは190馬力&400Nm。1750rpmから2500rpmまでの間で生まれる大トルクはいかにもディーゼルらしい。基本設計はボルボのガソリン・エンジンと大きな差はない。ヘッド部がディーセルのため少し高くなり、ブロックの左右に吸音材を配している程度だ。
 このエンジンには日本のパーツメーカーも大きくかかわっている。それが「デンソー」。このクリーン・ディーゼルの最大のポイントとも言うべきコモンレール・ダイレクト・インジェクション・システム「i-ART」は、基本的にこのメーカーの手になる。各気筒のインジェクションに超高圧で燃料を噴射する、しかもその制御時間は10万分に1秒だという。一度の燃焼で複数回数(9回)も噴射できる。当然、人間の感覚の及ぶスピードではない。
 このエンジンを円滑に動かすためにオイルもカストロールと共同開発をした(10W-20)。ターボはボルグ‐ワーナー製の大小2ステージ・タイプ。低回転ではまず小さいほうのターボが活躍する。だからタイムラグはほとんどない。このほか、ドライバビリティや燃費に大きく関係する8速ATトランスミッションは、アイシンAW製だ。ここでも日本がピカリと光る。

V40はスポーティ、V60はプレミアム。相対的に安い

 エンジン・パフォーマンスの数値は、BMW320dをわずかに上回るが、実質的には同等と考えていい。静かさではボルボのCX-3がナンバーワン(デミオのディーゼルよりも静か)だと思う。ただし、あれは1.5リッターだし、パワー的にも劣る(105馬力&270Nm)。加速に不満はないが、グイグイとまではゆかない。それはそれでいい。マツダのディーゼル車を比較対象にするなら2.2リッターのアテンザXD(175馬力&420Nm)だろうが、これらのディーゼルにもデンソーの技術が反映されているらしい。が、その辺は詳しく聞かぬが華、か。
 さて、60シリーズにも積むD4の良さがもっともよく分かるのは、やはりボルボの底辺を支える40シリーズだろう。試乗したのはV40D4・SE(399万円)。ベースのV40D4(349万円)よりも装備が充実している。たとえば、21万円のナビとTVチューナーが標準装備だ。方向音痴のぼくとしてはこっちを選びたい。
 V40D4は非常にバランスがいい。乗り心地もいいし、操縦性も自然だ。全体として良い意味で突出したところはないが、印象としてはスポーティに感じる。それは、おそらくディーゼルの低速トルクのせいだろう。ガソリン・エンジンに引けを取らないほど滑らかに回る。最高出力の発生回転数は4250と、これもディーゼルらしく高くはないのだけれど、8速ATがさり気なくシフトアップしてくれる。だから、エンジンの頭打ち感はない。0→100km/h加速は7.2秒。とびきりではないが、感覚的には十分速い。
 ただ、アイドリング時の騒音はディーゼルであることを思い出させる。で、アイドルストップを起動させようとアクセルペダルを色々踏み直してみたが、うまくゆかない。てっきり壊れているのだと思い、その由をボルボに伝えると「30℃以上では働かないんですよ」。知らなかった。知ってました? 
 ドライビング・モードはECO+(プラス)、D、スポーツと三つ選べる。とくにECO+とスポーツの差は明確で、アクセルレスポンス、エンジン、シフトポント、エアコン、それにアイドリングストップの効くスピードなどをコントロールする。スポーツ・モードにすると800rpmだったアイドル時のエンジン回転数が1000rpmに跳ねあがると同時に、エアコンが切れた。もちろん再起動できるのだが、この日はエアコンなしではとても過ごせなかった。
 もう1台乗ったのはV60D4のRデザイン(549万円)。さすがにRらしく乗り心地は相対的に硬かったが、キャラクターはV40よりもはるかに大人だ。挙動もゆったりしていて、よりプレミアム感がある。これは装備だけでなく車重の違いも大きい(V60D4RデザインはV40よりも140kgも重い)。それなのに出足は鋭い。時にトルクが太すぎるとさえ感じることがあった。
 燃費はいい。V40で20.0km/ℓ、同クロスカントリーだと21.2 km/ℓ、一番悪いXC60でも18.6 km/ℓだから税制上も有利。対ガソリン仕様価格は25万円ほど高いが、3年も乗ればその差は吸収できる。北欧の新しい風は、想像以上にクリーンである。 


撮影:佐久間 健 

最終更新:2015/08/11