スズキ・アルト

リッター37kmという燃費は一つのニュースだ

神谷 龍彦

フロントグリルはメガネのイメージ。コーナーを軽快に駆け抜ける。乗り心地もよし。

ロングホイールベース化で室内もかなり広くなった。シートなども軽量化の対象に。

最上級のXに設定されているミディアムグレーのバックドアは16200円高になる。


インテリアは白のツートンカラー。若干安っぽさも。メータ―のイメージもメガネ……。

エンジンは大幅な改良&コンパクト化。軽量化に合わせてCVTの変速比も変更した。

リアシートの居住性は大きく向上した。形状は単純だが、前後の余裕はぐっとアップ。


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「間に合わなかったのではありません。アルトにS-エネチャージを付けると、その分クルマの値段も上がる。それを避けたかったからです」
「なぜ、ワゴンRに採用した最新のS-エネチャージを装着しなかったのですか?」というぼくの質問に、スズキの担当者はきっぱり答えた。
 79年にデビューしたアルトは今回のモデルで8代目。この間、女性に人気の高い軽自動車として483万台以上売れたという。ハイトワゴン系のワゴンRとは異なり、軽自動車の裾野を支えるモデルだ。プライシングはぼくが想像する以上にシビアらしい。
 で、その出来栄えは……想像以上にスグレモノだった。データから言えば、2WD+CVT+エネチャージ車(下からL、S、X)のJC08モード燃費が37.0km/L! S-エネチャージを付けたワゴンRよりもはるかにいい。もちろん、何となくのフルモデルチェンジではこうはゆかない。そこには徹底した軽量化があった。徹底だから一部ではない。すべてがその対象となった。その結果、2WDのCVT車で60kgものダイエットに成功した。
 減量の対象でまず挙げられるのは新型のプラットフォームの採用だ。形状をできるだけ滑らかにして補強部品を減らすと同時に板厚も減らした。それでも剛性は落ちていない。リア・サスペンションもトーションビームに変更。軽量化の鋭い眼はシートにも、外装にも、内装にも、もちろんエンジンにも及ぶ。何キロも走って汗をかき、さらにサウナに入ったうえでのダイエットを要求するようなものだから、これは厳しい。
 新プラットフォームの採用によって、ホイールベースは60mm伸びた。室内長も145mmも延長され2040mmに。左右の余裕も増やした。事実、室内は前後席ともこれまで以上に余裕を感じさせる。これらを実現するために、前後タイヤはさらに端に追いやられた。

これならNAで十分。乗り心地もいい。価格も納得 

 乗ってみてまず驚かされたのは、その速さだ。もちろん、軽自動車のNA(自然吸気)としてはという意味だから、速いと言っても絶対スピードはしれている。軽自動車というと、街乗りにはNA、ちょっとスポーティな走りには過給というのが常識だった。しかし、新型アルトはNAでも十分速い。これに大きく貢献しているのは軽くなったボディと大幅に改良されたエンジン。走りの軽快さ(軽薄さはない)は体感的にも良く分かる。
 事実、0−100km/h加速タイムは、CVTと先代のアルトATと比べると1.6秒も速い。実際の追い越しで使うことの多い40〜80km/h加速も0.9秒上回る。一方、3月発売予定のターボモデルは“ワークス”とは呼ばないでRSとなるらしい。過去のワークス以上に走りに徹したモデルになりそうだ。
 もうひとつ好印象を抱いたのは快適性だ。これにはエンジン音の静かさも(NAなのに静かになった)、乗り心地の良さも、室内の広さも含む。軽自動車の乗り心地はグニャグニャかガチガチという時代を経てここ十年ほどは随分良くなった。それでも隠しきれない粗さは多少残っていたが、このアルトはそれをも克服しつつある。サスペンションのストロークを伸ばしたおかげで乗り味がソフトになった。しかも昔のような曖昧さはほとんどない。ただし、この印象はあくまでも街乗りでのもので、荒れた路面では未確認だ。
 でもアルトの美点の最たるものは燃費でも走りでもなく、実はその価格設定にある、とぼくは思う。“原始、軽自動車は安かった”。それがいつの間にか随分高くなった。時にはリッターカーを凌ぐほどに。その分、進歩ぶりも凄かったから文句はない。だからこそ、RJCは2015年度の特別賞に「日本の軽自動車」を選んだ。その対象はスズキに限らない。
 ただ、ベーシックなモデルまで高くなりすぎたきらいはある。その中で原点に戻ったモデルのひとつがこのアルトだろう。乗用車の価格は84万円台(F・5MT)から始まり122万円(X・4WD)で終わる。RSは当然もっと高くなるだろうが、これは別と考えていい。もうひとつ注目しておきたいのは商用車(VP)。最低価格は69万円台(5MT)と安い。
 ついでに触れると、このVPとFには5速AGS(オート・ギア・シフト)仕様がある。これはマニュアルトランスミッションをベースに、クラッチやシフト操作を自動化したもの。この使い勝手がすこぶるいい。スムーズでダイレクトな走りが楽しめる。免許はオートマでOK。価格を考えて安いモデルだけに搭載したのだろうが、そこにとどめておくには惜しいシステムだと思う。
 クルマには乗らなくても分かるもの、乗ったら想像通りだったもの、そして乗ったら期待を裏切るものがある。新型アルトはいい意味で期待を裏切ってくれた。ちょっと嬉しい。

PHOTO:佐久間 健

<神谷 龍彦> 最終更新:2015/1/23