トヨタのクラウンに「本格的なハイブリッド車」が加わった。08年2月のクラウン(ロイヤルシリーズ)のフルモデルチェンジ発表の折に、「5月にハイブリッドを新設定する」と予告されていた。そのハイブリッドが5月6日から発売された。
外観、寸法諸元はクラウンアスリート(2WD)と同じ。ハイブリッド用のニッケル水素バッテリ−(約67kg)やその制御システムなどを搭載しているから、車両重量はアスリートに比べ、約180kg重い1840kg。
エンジンもアスリートのそれと同じ2GR-FSE型だが、ハイブリッド用に性能が少し違っている。V型6気筒35リッターDOHCエンジンは218kw(296PS)の最高出力。ハイブリッドのモーターの最高出力は147kw(200PS)。これによりシステムとしての最高出力は、254kw(345PS)となる(社内測定値)。
ハイブリッドシステムは、レクサスGS450hに用いられているTHS-2(トヨタハイブリッドシステムー3)と同じもの。
ちなみにトヨタのハイリアーハイブリッドと似た方式だが、モ−タ−、ジェネレ−タ−等の性能等は違っている。
エンジンと電気モーターを併用する方式のハイブリッド方式で、減速時にエネルギーを回生することで、燃費の向上をはかるシステムもかわっていない。
新型クラウンの35Lエンジン搭載車は、アスリートだが10.15モード燃費は100km/Lである。これに対して今回のハイブリッド車は158km/Lである。ベースモデルに対して約58%増しの燃費性能となっているわけで、その意味での魅力も大きい。
ハイブリッド車には、EV(電気自動車)として走る機能もついている。センターコンソールのEVモードスイッチを入れると、メーターパネルに「EV」のマークが出る。アクセルペダルをゆっくりと踏み込むと、音もなく静かに走りだす。バッテリーの充電量や路面の条件にもよるが、距離にして約2km。スピードは50~60km/hも出せる。ただし、アクセルを強くとか早く踏み込むと、制御システムは「急加速を求めている」と判断して、エンジンを始動し、エンジンとモーターの併用になってしまう。この時には一時停止をしないとEVモードに戻らない。朝早く、ガレ−ジから静かに走り出したい人には使いたいモードであろう。
トランスミッションは「電気式無段変速機」と記されている。いわゆるCVTだ。動力分割機構を用いて、エンジン、モーター、ジェネレーターの3つの回転運動をプラネタリーギヤでまとめ、それぞれの負荷などによって制御し、ギヤ比を無段階に変化させるという機構。アイドルストップやエネルギー回生などの制御も行っている。
ギヤシフトレバーは「D」の自動変速の位置と、「S」(マニュアルシフト感覚で、シ−ケンシャル<順次的>にシフトできる)の位置がある。Dの位置だと「ECO」運転もできる。Sの位置だと(Dの位置より)少しローギアードの位置になることもあって、ECOモードにはならない。その代り、広い速度域でエンジンブレーキがかけられる性能になっている。
DでもSの位置でもアクセルペダルをグイと踏み込むと、スポーツライクな車のような加速をみせる。走り味も良い。
ハイブリッド車の静粛性をより高めるために、「アクティブノイズコントロールシステム」も用いられている。ルーフ(天井)に設置された3個のマイクでエンジンのこもり音を検出し、これを打ち消す制御音をオーディオユニットから出力するシステムである。
日本の高級車の伝統を継承する車だから、先進的な技術も数多く装備されている。インテリジェントパーキングアシスト(IPA)、サイドモニター、ステアリング感応式クリアランスソナー、バックガイドモニター、レーンキーピングアシスト(LKA)ブレーキ制御付きレーダークルーズコントロール等々枚挙にいとまがないほど。この装備の充実も魅力の一つといえよう。
価格は619万円(ハイブリッド)。アスリートのGパッケージが567万円だから、約52 万円ほど差がある。燃費節減と、環境にやさしい性格をもつハイブリッド車を所有することに加え、45Lエンジン並みのパワーを使える車を魅力と考える向きには納得できる人も多いだろう。
ハイブリッド車の技術は、水素を燃料とする技術の過渡期とか暫定的な技術とみられたこともある。が、トヨタはそれを「中核的な技術」と位置づけている。クラウンにも本格的なハイブリッド車が生まれたのも、そのあらわれともいえよう。