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軽井沢はまだ冬だった。雑草の根元のかすかなグリーンを除けば──。
桜の花なんてとんでもない。林は冬枯れのままである。標高2500メートルを超える浅間山にも雪がしっかり残る。寒い。でも実を言うとこの試乗会が開かれたのは1週間以上前のこと。今頃は春が誇らしげに顔を出ているだろう。遅い春ほどいったん動きだすと早いものだから。
1月、2月は208が連続してヨーロッパでトップに
プジョー(グループPSAジャパン)はこのところ調子がいい。3月のセールスはプジョー、シトロエン、DS合わせて1911台。これは対前年比151%。過去10年間の単月での新記録だ。1月から3月の販売台数も147%。この伸び率も凄い。
「新型コロナの影響もあって昨年のインポーターのセールスは15%程度のダウンでした。その中で私たちのセールスはほぼ前年並み。そして今年に入ってのこの好調ですから。」
担当者の声が弾むのもムベなるかな。この間の地道な努力が実って、PSAにもパっと花開く春がやってきたようだ。
その屋台骨を支えるのが、1月と2月連続してヨーロッパでトップセールスを獲得した208だ。4位につけた2008の伸びも注目に値する。そんな状況下でPSAはプジョーのSUV試乗会を開催した。
3008はハイブリッド4をメインにON&OFFロードで
起点は軽井沢駅から車で1時間ほどのオープン前のホテル。裏山の急峻な道を利用したり、オフロードコースを作ったりと、主催者側のSUVの試乗会らしい工夫がうかがえる。周辺にはワインディングも多い。というかワインディングしかない。SUVの試乗舞台としてはうってつけだ。ただ試乗時間が撮影も含めて45分というのはきつかった。
3008自体の日本発表は1月27日(RJC webで既報)。そのポイントは、フロントデザインの変更、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems=先進運転支援システム)の強化、そしてプラグインハイブリッド(PHEV)4WDの新設定だ。日本でいえばマイナーチェンジである。今回はこのGTハイブリッド4WDを中心にレポートする。
グリルのライオンエンブレムは本来なら新しいモノに代わっているはずだが日本仕様には間に合わなかった。あのちょっと強面の新エンブレムは年末に日本導入予定の新型308からとなる。
エクステリアデザインの大きな特徴は、フレームレスになったグリルと同時に新世代プジョーを表すLEDデイタイムライトが他のプジョーSUVと共通の縦型セイバー(サーベル)なったこと。ライオンの爪の引っ搔き傷を表すというリアのランプは基本デザインは同じだが立体感を増した。
エンジン200馬力。モーターと合わせて300馬力 最強!
パワートレーンは3種類。1.6リッターガソリンターボ(133kW)、2.0リッターディーゼルターボ(130 kW)、そして新しく追加された PHEVだ。エンジンはこれまでの1.6リッターターボの133 kW(180馬力)を147kW(200馬力)にパワーアップ。トルクも300Nmに増えた。モーターは前後に二つ。出力は、フロントモーターが81kW、リアモーターが83kW。エンジンとモーターを合わせたパワー/トルクは221kW(300馬力)/520Nm、プジョー歴代市販モデルモデルでは最強になる。
PHEVの日本導入はプジョーとしてはこれが初めてだが、これまでにプジョーにPHEVがなかったわけではない。2011年に登場したハイブリッド4はフロントにエンジンを置きリアにモーターを配した。ただしこのモーターはあくまでもエンジンの補助であり、バッテリーはニッケル水素、フル充電で走れるのはわずか4kmだった。
これに対して新型3008ハイブリッド4はフル充電で64km(WLT)走行可能で、バッテリーはもちろんリチウムイオン電池。フロントモーターはエンジンとe-EAT(アイシンAW製8速)の間に収まる。GT系はすべて急な坂を下るときに役立つヒルディセントを装備する。
インテリアは小径ステアリングホイールを特徴とする「プジョーi-コクピット」を踏襲。ただ、文字や画像の精密さが増したような印象を受けた。シートは全モデル新しくなった。フランス車の場合、乗り心地の面からもシートはとくに重要で、ホールドも含めて不満はなかった。
ドライブモードは4WD、スポーツ、エレクトロニック、ハイブリッドの4種類。
4WDモードでは発進時はリア駆動を加えた4WDとなるが、状況に応じてFFにも切り替わる(135km/h以下)。エンジン主体で走るのがスポーツモード。シフトタイミングを遅らせ、アクセル、操舵などを総合的にコントロールする。エレクトリックモードは電力のみで走るモードだがアクセルを強く踏み込むと自動的にエンジンも稼働する。ハイブリッドモードだと発進時は常にリアモーター駆動となり(バッテリー残量がある限り)、運転状況によってエンジンとモーターが切り替わる。エネルギー効率がもっとも良いモードだ。
基本的にはモーター走行を最優先する
PHEV特有の静寂の中で一抹の不安を抱えながらアクセルを踏み込むと予想以上の加速感に迎えられた。モーターが得意とする低速トルクの大きさのおかげもあるのだろう。この軽井沢の試乗コースでは高速走行は試せなかったが、0⁻100km/h加速5.9秒というのも頷ける。ちなみにガソリン車の0⁻100km/h加速はおよそ8秒くらいだと言う。ロードノイズや風切り音も少ない。しかもエンジン、モーター、駆動の切り替えはほとんどわからない。それくらいエンジンも静かということだ。まさにシームレス。基本的にそんなこと気にするクルマではないのだろう。
プラットフォームは5008と同じEMP2。そもそもプジョーのプラットフォームは昔から定評があった。舗装路はもちろん、悪路への対応性も高かった。何度サハラ砂漠などでそのタフさに驚かされたことか。
ワインディングでの接地感は十分以上。速度感応型ステアリングの操安性も完璧に近い。思った以上に標高のある特設オフロードコースでも不安はなかった。まあ、道幅があまり広くなかったので高所恐怖症のぼくとしてはそのほうが気にかかった。こういう急峻道路の下りではヒルディセントコントロールも頼もしい。
ハイブリッド4の車重は1850kg。アリュールや他のGTと比べると240〜370kgも重い。しかしこの重さとリアにモーターを押し込むスペースを確保するためにサスペンションをマルチリンクに変えたおかげだろう、ハンドリングはすばらしいものがあった。
先進運転支援システムも世界トップレベルになった。中でも注目したいのは、ドライバーが好む左右車線任意のうち1本を選びそこから無段階で一定の距離を保って走れる「レーンポジションアシスト」だ。通常のレーンポジショニングは2本の車線の中央を走るようにセットされているが、さらに車線内での位置をえらべるというのが新しい。必要性はもうひとつピンとこないが、斬新ではある。
3008のホイールベースを伸ばして7人乗りにしたのが5008(セグメントC)。現時点での両車の販売比率は55:45くらいらしい。さらに3008を販売の中心にしたいと言う。
プジョー3008、とくにハイブリッド4は「幸せフレンチSUV」である。
グレードはガソリン&ディーゼルともにアリュールとGTの2タイプだが、ハイプリッドはGTのみとなる。GTハイブリッドのプライスは565万円で、試乗車はこれにパノラミックサンルーフ(15万3000円)/ナビゲーションシステム(24万8380円)などを装着しており613万3880円になる。
報告:神谷龍彦
撮影:佐久間健