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まずエンジンを始動して驚かされるクルマだった。今回試乗したのはボルボXC90D5 AWD。XC90シリーズでは初となるディーゼルエンジン搭載車だ。基本的にエンジン以外に関しては従来のXC90と変わらない。だがエンジンを始動するとその静粛性は驚異的だった。
一般的にディーゼルエンジンは高圧縮のために、ガソリンエンジンに比べて圧倒的に高いトルクを発生する反面、特有の「ガラガラ」というエンジン音が発生する。そのエンジン音が日本人にはあまり好まれていない。一部では、トラックや商用車などにディーゼル車が多いことから「ディーゼル車は仕事のクルマ」というイメージが強く、エンジン音もうるさく高級的じゃないというイメージが強い。
ところが、このXC90D5はエンジンを始動してもディーゼル独特のガラガラ音がしない。「え? これホントにディーゼルなの?」と思ってしまうほどだ。それは走り出しても変わらなかった。大袈裟ではなくマジでガソリンエンジン車にも引けを取らない静粛性だと思った。走り出す音を外から聞くと確かにガラガラ音は聞こえるのだが、少なくともアイドリング状態でボンネットを開けても微かにガラガラ音が聞こえるだけで、ほとんどうるささは感じない。深夜の住宅街でもこれなら気兼ねなくエンジンを始動できるだろう。
さらに驚かされたのがその走りっぷり。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比べるとトルクは太いが「回らない」というイメージがある。実際回らないのだが、今回搭載されたD4204T型ユニットはそんなディーゼルエンジンのイメージを払拭させるだけのポテンシャルを発揮してくれた。
エンジンは4気筒2リッターターボエンジン。回転のリミットはガソリンエンジンより低い5000回転だが、その吹け上がりはヘタなガソリンエンジンを凌駕していると言っていい。特にゼロ発進ではパワーパルスがその性能をいかんなく発揮した。
パワーパルスとは停車状態から30km/hまでの急加速時に、EGRパイプに圧縮エアを供給し、タービンを回す排気ガスの圧力を高め、タービンを素早く高回転に到達させるシステムだ。ラリー車ではアンチラグシステムというアクセルオフでも排気ガスをタービンに当て続け、タービンの回転を高く保ち、再びアクセルを踏んだ際にターボラグを解消させるシステムが搭載されているが、それに似たシステムかもしれない。
ゼロ発進からのアクセルオンのレスポンスは抜群だ。さらにパワーパルスが介入しない30km/h以上の車速でもその加速力は決してガソリンエンジンに劣っていない。エンジンからの振動もほとんど感じさせないほど。エンジン音や加速力を感じる限り、何も言われなければこのクルマに乗った人間はディーゼル車とは思わないかもしれない。それほど洗練されたディーゼル車だった。
報告:若槻幸治郎
写真:佐久間健