メルセデス・ベンツ AMG GT C ロードスター
Mercedes-Benz AMG GTC ROADESTER

これなら1台あっても悪くない

寒い中でも風の巻き込みは最小限。ダッシュボード両端からの暖かな空気も心 地よい。

伝統のパナメリカーナグリル。少し誇らしげな気分にさせてくれるのも事実である。

50km/hまでなら走行中でも開閉可能のソフトトップ。要する時間は約11秒。速い!


GT CはS、S+、Iモードのほかにサーキット専用モードをも持つ上級版だった。

エンジンはAMG製4ℓV8ツインターボ。GT CはGTよりも60kWもパワフル。

GTとの違いはリアで明らか。GT Cの方が57亶い。トラクションも増えた。


※画像クリックで拡大表示します。

 ……などと悠長なことを言えるような身分ではないのだが、世の富裕層ならきっとそう思うに違いない。そのくらい存分に愉しめる一方、これといった難がない。
 あるとすればただひとつ、「お二人様」限定の乗車定員だけだろうが、いやいやそんなふうに考えること自体、すでにして持たざる者なるがゆえの強迫観念と言うべきで、そもそも二人乗れれば充分なライフスタイルだってあり得るし、それにこのクルマを「ホビー」にするほどの御仁ならほかにセダン、それもSクラスだったりするはずだ、の1台や2台持っていて何の不思議もないからだ。
 この種のクルマを日常使いづらくしているもののひとつが「鼻」の長さと低さだが、一応用心のために歩道から車道への出入りに際してはクルマを斜めに振って実質的なアプローチアングルを稼ぐ心掛けを勧めてはみるものの、それとてもイタリアンエキゾティックカーあたりに比べれば意外にすんなりとクリアできてしまう。GT Cは左ハンドル仕様のみが用意される結果、コクピットからの眺めは2mになりなんとする全幅(独自の豊満なヒップのお蔭でGTのそれよりさらに55mm広い1995mm)と2シーターの割にはホイールベース2630mmの余裕を生み出す長大なボンネットとに視界の右下半分ほどが隠され、特に乗り始めは料金所のブースや縁石に近寄るのが憚られる気分だが、まあこれも慣れの問題ではあろう。
AMGのパワー+メルセデスの安楽=豪放磊落
 GT Cは2017年後半からAMG GTシリーズに加わったロードスターのうち、よりハイチューンな心臓とサーキットラン対応の足回り等を奢られた上級版。2298万円(から)のプライスタグはシリーズの嚆矢となった「素の」GTクーペ(1709万円)に比べて3割以上増しだが、それでも410kW(557PS)と680Nmの怪力をリアマウントの7DCTを介して実に305/30R20の極太(リア)タイヤにトラクションを与えつつ叩き出す0-100km/h:3.7秒の尋常ならざるデータは正真正銘スーパーカー領域と断言できるし、貧乏人が言っても説得力はないのだが異例のバーゲンなのは確かだ。
 となれば彼ら彼女らオーナーたちにとっては必ずしも虎の子の1台であるとは限らず、一旦「ハレの日」を打ち切った後、そのままドイツ流に仕立ての良いソフトトップを11秒かそこらでさっと引き上げて完璧なクローズドとし、そのままビジネスに買い物にと繰り出すのも案外現実的なシーンかもしれない。
 そんなジキルとハイド的な悦楽は日陰に雪が残って当初はこのクルマに最も相応しくないと思われたコンディションの中でもフルに堪能できた。まず何よりも多とすべきはオープンボディの不利をまるで感じさせない剛性の高さ。聞けばそのためにボディシェルを特段強化したそうで、スカットルシェイクは事実上看取できないレベル。これだけファットなバネ下を抱えていながらNVHの遮断が秀逸で、少なくともデフォルトモードで乗る限り当たりはマイルドそのものだ。
 むろん右足に力を込めれば静寂は一転、雷鳴のような咆哮を轟かせ、4ℓもあるV8(ツインターボ)ユニットと思えない足取りで一気に7000rpmまで駆け上がる。ステアリングはあくまで軽くスムーズで、そのせいかキャスターアクションまで弱く感じられるほどである。寒風をものともせぬ快適性は考え抜かれた空力による巻き込みの少なさに因るところが大きく、加えてダッシュボード両端から滾滾と泉のように吹き出すベンチレーターからの温風で身体全体が温まる。
 300SL(プロトタイプ)の“パナメリカーナグリル”を間近で見たのはしばらく前のペブルビーチでだったが、この顔で東京の街を悠然と走る時、やはりそれは少しく誇らしげな気分になろうというものである。
報告:道田宣和
写真:佐久間健

<道田 宣和> 最終更新:2018/01/29