「運転のゲーム化」で安全性や燃費は向上するか?

丸茂 喜高

 GPS機能を利用したゲームが社会現象となっている昨今、自動車を運転しながらゲームを行うことが問題となっている。運転中のゲームなど、もってのほかではあるが、であれば、いっそのこと運転そのものをゲーム化してみてはどうか。何かをゲーム化することは、ゲーミフィケーションと呼ばれ(国内では、体系的にまとめられたゲームニクスという理論もある)、顧客や従業員のモチベーション向上を目的として、サービスやビジネスの分野などで活用されている。このゲーミフィケーションを運転に応用することで、自動車の安全性や燃費は、果たして向上するであろうか。

 ゲーミフィケーションの要素が最初に運転に取り入れられたのは、燃費を向上させるエコドライブであろう。平均燃費や瞬間燃費をメータに表示する機能は古くから存在するが、ハイブリッド電気自動車が普及し始めた頃から、エコドライブの度合いをスコア化したり、葉っぱの枚数が増えたり、樹木が生長するなど、ドライバにエコドライブを動機づけるインタフェースが広まっている。自動車を運転するすべてのドライバが感心を持つとは言えないが、当初エコドライブに関心がなかったドライバも、このようなインタフェースにより、少しは興味を抱くようになって、エコドライブを心がけるようになったのではないだろうか。

 燃費以外の事例としては、ドライバの運転技量を評価するものがある。加速・減速時やカーブ走行時の加速度の変化量などから、運転技能を評価してドライバに知らせるものである。前述のエコドライブも同様であるが、このように何かしらのスコア化を行う場合には、どのような基準により評価されているのか、その判断基準が明確であることと、どのように運転操作を改善すればよいのか、ドライバ自身が理解して実行できることが重要である。これらの要素がなければ、たちまちゲーム性は失われてしまうことになる。

 安全運転は定量化が難しいものの一つであるが、絶対的な速度を低下させる取り組みがスウェーデンで行われた。これは、道路を走行する自動車の速度が、道路脇に設置された電光掲示板に表示され、制限速度を守ったかどうかを知らせるものである。この取り組みが卓越しているのは、制限速度を守ったドライバの中から抽選で賞金が当たるのであるが、その原資となるのは、違反者の納めた罰金である点にある。

 老若男女を問わず、ゲームは誰しもが好きなものである。単なる移動手段でしかなくなりつつある自動車に、若者を呼び戻すための付加価値が、自動車のデザインや機能、性能そのものではなく、運転をゲーム化するエンターテインメント性にあるとすれば、今後、自動車業界で活躍するのは、ハードではなくソフト(ゲーム)のエンジニアであるかもしれない。

報告:丸茂喜高

<参考文献>
1.丸茂喜高、平岡敏洋:自動車分野におけるゲーミフィケーション活用の動向、自動車技術、Vol.68、No.5、pp.39-42 (2014)
2.サイトウ・アキヒロ、ビジネスを変える「ゲームニクス」、日経BP社(2013)


最終更新日:2016/08/22