「見通しの良い交差点」でなぜ事故は起こるのか?

丸茂 喜高

 田園風景の広がる郊外では,碁盤目状に道路が交差していることが珍しくない.そのような見通しの良い交差点で,出会い頭事故が少なからず起きている.見通しが決して悪いわけではなく,相手の車両が良く見えていたはずなのに,なぜ事故は起こるのか.「田園型事故」とも呼ばれるこの種の事故の原因をひも解くと,その答えは自動車を運転するドライバの視覚機能にあるようだ.

 人間の視界の中で,物体の形状や色をしっかりと認識できるのは,中心視と呼ばれる非常に限られた範囲である.それ以外は周辺視と呼ばれ,動きや明るさの変化があるものしか認識することができない.田園型事故は,相手車両が周辺視の中を動かない場合に起こるということが指摘されている.

 例えば,自車両と交差する相手車両が同じ速度で,相手車両が自分から向かって斜め45°の位置(左右どちらでもよい)にいたとしよう.ピタゴラスの定理を用いるまでもなく,これらの車両は,速度が一定であれば,いずれ衝突することになる.この場合,相手車両は,常に斜め45°の位置にいて,徐々に大きくはなるが周辺視野内で動くことはない.そのため,相手車両の発見が遅れて,気がついたときにはもう手遅れになるのである.衝突する条件は,これ以外にも様々であり,二つの車両が異なる速度であっても衝突は起こりうる.仮に自車両が30km/hで走行しているところを,相手車両が斜め60°の位置で52km/h(≓30km/h×√3)で走行している場合にも衝突することになる.これらはコリジョンコースと呼ばれ,航空機の分野でも事故原因となっている.

 このような事故に対して,すべての交差点に信号機を設置する訳にもいかず,何か有効な手立てはあるのであろうか.国内で最初に採られた有効な対策は岐阜県警の例であろう.そこでは,田園型事故が起こる人間の視覚機能を逆手にとって,非優先側のドライバに相手車両を気づかせる仕組みを作ったのである.すなわち,優先側の道路の脇に複数の植木鉢を断続的に設置して,非優先側を走行する自車両から見ると,相手車両の位置は変化しないものの,見え隠れする相手車両のコントラストを変化させることにより,ドライバに気づかせるという手法である.この対策により事故低減効果が確認され,現在では,植木鉢の代わりに遮蔽板を設置する対策などが全国各地で講じられている.今度,帰省する際などに見通しの良い交差点を走行する機会があれば,一度意識してみるとよいかもしれない.

<参考文献>
1.内田信行,藤田和男,片山硬:見通しよい交差点における出会頭事故について,自動車技術会論文集,Vol.30,No.1,pp.133-138 (1999)
2.内田信行,福山邦男,浅野陽一,藤田和男,片山硬:運転者の周辺視特性に基づく出会い頭事故防止−見通しの良い交差点での発見遅れメカニズムと交通視環境の改善−,自動車技術会学術講演会前刷集,No.51-05,pp.5-8 (2005)


最終更新日:2015/08/20