解決すべき課題は多いけど、自動運転には期待大

神谷 龍彦

●まず高速道路だけでもナンとかならないかねえ
 日産が「2020年までに自動運転車を発売する。それも手に入る価格で」と宣言して以来、自動運転にガゼン注目が集まりだした。車好き(運転好き?)の中には反対の声もあるようだけど、ぼくは賛成だ。CO2や事故が減るとか、運転のストレスがなくなるとか、高齢者やハンディキャプのある人々に優しいとかいうだけじゃなく、いまここにいるぼくが欲しい。値段は別にしてね。
ぼくの田舎は東京からクルマで5時間近くかかる。その大半は高速道路になるんだけど、最近はこれがけっこう苦痛だ。初めて手にしたゴールド免許をなくしたくないから、昔ほどスピードは出さない。すると、とたんに高速道路は退屈な道になり下がる。多くの場合、多少荷物があるからクルマがいいんだけれど、この高速道路走行がネック。こういう時に自動運転車があれば……。
最初はあまり自動化しないモデルがいいけど、携帯電話といっしょで時代の流れにはさからえないだろうな。世の中は間違いなく自動運転の方に流れる。でも、それは必ずしも運転の楽しさを奪うことにはならない。自動運転がイヤならスイッチでカットすればいいんだから。
ところで、先日の東京モーターショーにも日産リーフをベースとした自動運転車(Autonomous)が展示されていた。一見、ぼくらがアメリカで乗ったのと同じに見えた。しかし、たとえばサイドのレーザースキャナーの処理がリファインされているなど、進化の跡も見受けられた。もっとも大きな違いはカメラ。このモデルにはバックミラーに前方用カメラが三つ付いていた。アメリカで乗ったリーフのバックミラーにはカメラは一つしかなかった。つまり、自動運転車はまだまだ進化途上、実験中なのだ。日産の担当者によると、安倍首相が公道で乗ったのはこの最新タイプらしい。

ハンドルが勝手に回ってゆくのはちょっと変な感じ
アメリカ・カリフォルニア、海兵隊航空基地跡。やたら広い。暑い! 9月のイベント(日産360)に思いをはせる。
「まだ研究途中なのですよ」
開発者のこの言葉は、真っ先に自動運転の試乗会場に足を運んだぼくを少しがっかりさせた。新しいシステムを開発したというのではなくて、基本的には従来あったものまとめ上げてレベルアップさせたのだ。じゃあ、なぜこの段階で試乗までさせるのですか? と尋ねると、
「この分野でリーダーシップをとりたいからです」。
なるほど、その後の日本での展開を見ると、首相に乗せたり(他メーカーも参画)、神奈川県と協賛したりと、ライバルがひしめく中でも一頭地ぬきんでている感はある。
アメリカでは試乗と言っても助手席に座っているだけ。運転席のエンジニアがステアリング中央右のスイッチを押すと、自動運転リーフはスルスルと走り出した。様子を見て高速に合流、曲がり、追い越し、高速化道路から出て、一般道を走り、突然現れた人型人形を避け、そして止まる。ハンドルだけでなく、すべての操作が自動で行われる。
コースは一般道から高速道路、そして一般道に戻るというもの。基地跡は広いから高速道路もそこそこのスピードで走れる。このあたりが、10月1日から幕張メッセで行われたCEATEC JAPANでのAutonomousのデモ・ランとは異なるところだ。会場の広さの問題で幕張では一般道しか設定されていなかったが、高速道路だって十分対応できる。というか、条件がシンプルな高速道路の方が開発には有利なはずだ。
もうひとつ印象的だったのはスーパーなどの平面駐車場をイメージした自動パーキング。クルマを降りてリモコンのスイッチを入れると勝手に駐車場内を動き回り、空きスペース見つけてバックから駐車する。場所がなければ見つかるまでグルグル回っているし、他車と遭遇すれば待つ。クルマに不審者近づけば、その画像をオーナーのスマートフォンに送る。ドライバーが帰りたいと思えば再びリモコンを操作すればクルマが迎えに来てくれる。忠犬ハチ公みたいで気分いとよろし。バックが不得意なぼくは今すぐにでも欲しい。しかし、これとて改善の余地があると言う。
「だって、実際には黒っぽいクルマの隣に駐車するのって迷うでしょ」。……まあね。
自動運転はトヨタやホンダ、Google、ボッシュなど多くの企業が挑戦しているが、自律性という面ではAutonomousがもっとも進んでいる。自動運転とは直接は関係ないが、すでに実用化されているアラウンド・ビュー・モニター・システムで10m四方の情報を確保する。アメリカでの試乗車は、それ用の広角カメラが前後左右に5台。ただし、従来のようにアナログではなくて精度の高いデジタルだという。基本的には、これらのカメラで写した映像の歪みなどをコンピューター処理して、あたかも高い所から見ているようにモニターに写し出す。あれは虚像です。騙されてはいけません。

カメラのほかにもいくつものセンサーがサポート
Autonomousには、このほかに位置情報を正確に把握するためのレーザースキャナーが6コ(前3、左右2、後ろ1)。これは自動運転のもっとも大切な武器のひとつで、たとえば、サイドのレーザーは後方から来るクルマを認識する。レーンチェンジや追い越し、歩行者などの位置を見極められるのも、このレーザーあればこそだ。前方車との関係は到達距離200mのミリ波レーダー(前1)が担当する。後ろには2コ。(このあたりは下の図1を拡大して見てください)。
コースの認識は基本的には路上の白線。これにはバックミラーのカメラが活躍する。では白線がないような道ではどうするか。そういう場合はカメラ映像やGPSナビを利用すると言う。ただし、現在ではGPSに精度の問題があるらしい。この精度が高くなれば、ナビを使ってのドア・ツウ・ドアの自動運転もできるようになると言う。  
「じゃあ、私でも運転できるのね」
この話をしたら、無免許の我が妻がこう言った。気持は分かる。分かるが、ことはそう単純ではない。何と言っても道交法というとっても高い壁がある。道交法はドライバーが運転することを前提にした「お定め書き」だから、たとえ物理的に自動運転ができるようになったとしてもまず「イイヨ」とは言ってはくれない。法は冷たく保守的なのである。
もちろん、クルマの側にだって解決すべき課題はまだまだ多い。市販化となれば100%の安全性が求められる。高速道路の自動走行は比較的やり易いかもしれない。でも、ただでさえ何が起こるか分からない一般道での自動運転となると、イヤになるほどテストを繰り返し、気が遠くなるほどのデータを集めて対策をうたなければならない。周辺状況を“認知”するのはかなり進んでいるけど、その次の段階の“判断=人工知能”は一段とむずかしい。ブレークスルーが必要だ。だから、いくつも大学との共同研究も欠かせない。
でも、もしかしたらもっとも大切なのは、「自動運転を認めろ!」という世論作りかもしれない。いずれにしても、完全なる自動運転への道はまだまだ遠い。しかし、自動高速道路走行と自動パーキングだけなら……とぼくは密かに期待している。
最後に、自動運転車同士の事故の責任はどうなるのだろう。保険の問題もあるし……。
「事故の責任は現時点ではオーナーです!」 
日産の担当者はきっぱり言った。

分かりにくいかもしれないけど、周囲の確認はとても厳重に行われている。

不意の飛びだしにも余裕の対応。確認・判断能力は人間の約100倍あるという。

自分で駐車スペースを探し、あるまでグルグル。呼べば迎えに来る。愛いヤツ。


最終更新日:2013/12/28