「キャプテンシートは三列目」。エクシーガの不思議な空間づくり。

宮本 喜一

 私がこのエクシーガのキャッチコピーを任されたとしたら、富士重工発の“正式な”「エキサイティング7シーター」ではなく、素直に、こうする。
 
 多座席乗用車の空間というのは、今や日常的に見慣れた存在だ。そのつもりで乗り込んだのに、エクシーガのそれは、少々違っていた。言うまでもなく、多座席の場合、1列目2列目のスペースは“広大”だ。しかし3列目は比較的窮屈、というのが常識で、当然、あまり多くを期待しないところだ。つまり、“最寄りの駅までなら、まぁいいか”的座席であり、荷物スペースにもなってくれるから、よしとする、というのが一般的な期待値ではなかっただろうか。
 
ところが、このエクシーガの3列目に座ると、この手の印象は見事に裏切られる。もちろんスペースが決して広いわけではない。3列目に割り当てられた物理的なスペースは確かに限られている。ところが、身長170センチほどの私の場合は“押し込められた”感覚に悩まされることはないのだ。むしろ、目の前に空間が広がっていて、さらには座面の位置がさりげなく(ここが大切)高くなっているため、2列目の肩ごし、さらにはドライバーの肩ごし(正確には違うけれども、感覚的にはそうだ)に、計器盤までよく見える。というより“見渡せる”感じがする。もちろん左右と前方のウィンドウからながめる外の景色も、“トーチカ”から眺めている気分とは全く無縁。
 
 窮屈さを感じない決定的な理由がもうひとつある。両膝の自由度が大きいのだ。確かに足元の空間は、狭いといっても不正確な表現ではないほどだ。けれども2列目との空間のとり方が上手で、しかも足の曲げ方にあまり不自然さがないために、膝周りに窮屈感がない。頭上空間もしっかりとれているので、天井を意識しないですむ。つまり、膝と頭が使えるスペースが確保されているため、“押し込まれた”感じがしない、というわけだ。
 
実際に車体が動き出しても、このすっきりした印象は変わらない。普通の走行状態では、はるかに離れているはずの運転席助手席とも気持ちよく会話ができる。しかも後ろのサスペンションの直上に座席があるにもかかわらず、座面の動きはあくまでなめらか。最後列に“座らされている”ひけめを感じない。“ちょっと駅まで”どころか、高速道路を使って温泉旅行、まで文句はない。
 
 スバルはもともと、ドライバーをはじめ乗員のシートの座らせ方にはこだわりを見せる企業だ。加えて、このエクシーガでは、空間のつくり方にも独自の工夫を見せてくれたと思う。足元の絶対的な空間の制限を補って余りある視覚的な空間の演出、それを支える走行性能。その知恵によって、3列目の乗員に与えられた室内空間が視覚的には最大であり、多座席乗用車の場合、実はそれが3列目ならではの楽しさだということを教えてくれている。つまり、3列目であることを逆にアドバンテージに変えてしまっているのだ。
 
この空間の演出は、ガラスルーフ装着車の場合、さらに効果を増す。私なら、「どっちに座る?」と聞かれれば、素直に「3列目、その方が楽しいから」と答えるだろう。
 
(国会の代議士や議員の座席を見れば、ベテラン議員ほど席は後ろ。堅いことを言えば、“キャプテン”の後ろには本来誰も座ってはいけないわけで、その意味からも、キャプテンシートは最後列につくるべき、と、ちょっとへそ曲がりなことを考えさせられた。これは単なる蛇足)
 
今度スバルのエンジニアに会ったら、1.66メートルという高い車高を感じさせない(通常のセダン感覚で乗っていられる)3列シートの空間をつくりあげた工夫と知恵を改めて聞いてみようと思っている。


最終更新日:2010/04/16