アウディTT

初代への憧憬から脱し、新時代のTTを楽しむ

神谷 龍彦

こんな豪雨の中でもクワトロなら不安なし。フォーシルバーリンクがR8のようにボンネットに移動。

大きくはみ出したホイールハウスとアーチ型のルーフ、そして上3分1のキャビンもTTの伝統である。

3つのエアベントの中央に温度や風量などを表示する。ドライブセレクトスイッチはシフトの手前。


ナビはメータースペースに表示される。メーターはもっと大きなサイズにも。見やすさは上々。

エンジンは2タイプ。これはTTS用のハイパフォーマンス版。圧縮比を高めるなどして56馬力向上。

これが、グッビオの街でたまたま出会ったイタリア人の好意で撮れた初代TTロードスターの写真。


※画像クリックで拡大表示します。

「じゃ、ボクについてきて」
 バイクに乗ったイタリア人は言った。ぼくは一抹の、いや多いなる不安を胸に秘めその初対面の男の後をTTロードスターで追った。
 所はイタリア・グッビオ、前年(1998年)のクーペの試乗会に続いて、ロードスターのそれにもアウディはこの地を選んだ。サッカーでも知られるペルージャから聖フランチェスカで知られるアッシジの街を風のように駆け抜けた。グッビオは4000年の歴史を持つ古都だ。石の街とも呼ばれる。古い街並みは極めて味わい深いが、それだけに道は狭い。撮影場所を探している妙な東洋人を見て、先ほどから見え隠れしていた冒頭の男が近づいて来た。ぼくはちょっと身構えた。
「写真撮る場所、探しているのか」
「うん、まあ」
「いいとこ教えてやる」
 で、着いたのが狭い道の、ぼく身長の3倍はありそうな大きなドアの前。開けると奥には中庭が見えた。ただ、その中庭に続く7〜8mの間が30cmほど下がっている。これじゃ無理じゃん、というぼくの胸の内を見越したように、男はその脇に置いてあった板を慣れた手つきで敷いて“道”を作ってくれた。慎重に板の道を渡ってクルマを中庭の適当な位置に停める。男の後に続いて、博物館のような、思いがけず立派な石の階段を上る。ポケットの中のキーを握る手が汗ばんできた。ここで襲われたら、クルマもぼくも行方不明になってしまうかも……。
 5階ほど登った所で男が部屋に入った。
「ここどうだ?」
そこはバスルームだった。
「う〜ん」
「じゃあ、こっちは」
 今度は寝室。日本で言えば十畳くらいか。
「こちのほうがいいねえ」パシャリ、パシャリ。どうやら無事に済みそうだ。
 海外では近寄ってくる人に気をつけろとよく言われる。確かに用心するに越したことはない。でもまあ、こういう幸運もある。

今度は最新テクノロジーをアピールする

 TTには発表されたときからとても興味をひかれた。全長×全幅は4060×1765㎜(クーペ)。全幅は1700㎜を越えているが印象的にはコンパクトだ。エンジンは1.8ℓターボ(後に3.2ℓV6も追加)。駆動方式はFWD(前輪駆動)とそれをベースにしたお得意のクワトロ(フルタイム4WD)。何よりもデザインが出色だった。円形を基調とした独特のスタイルは新時代を感じさせた。ただ、足はこの時点ではスポーツカーらしく極端に硬かったが、ロードスターではややソフトになっていた。
 2006年にTTは2代目になる。しかし、あろうことか初代に比べてググッと膨らんだ。全長が120㎜、全幅が75㎜も増えたのだ。スタイルはいかにもアウディらしさを漂わせてエレガントになったし、スポーツ性も向上した。初代が「スタイリングのアピール」を使命としたのに対して、2代目は「ピュアスポーツ」を目指したという。よりアウディらしくはなったが、TTらしい個性は減った。ぼくはこの時点でかなり興味をそがれた。
 そしてこの3代目。全長と全幅が10㎜ほど3代目より短くなっているという。初代のイメージを大切したという。数値的には小さいが、魅力的じゃないか。そしてもうひとつ興味をひかれたのはナビも表示できるメーターナセルだ。解像度が素晴らしくいいらしい。アウディバーチャルコックピットと呼ぶ。3代目TTのテーマは「最新テクノロジー満載」である。

速くて快適。良いことづくめのTTS

 試乗日は生憎の雨。それもかなり激しいヤツ。でも、クワトロの良さを味わうには絶好のコンディションとも言える。初代TTのイタリア試乗会で、ウデに覚えのあるレポーターたちは「FDWの方が面白い」と言っていたが、ぼくはクワトロの方に好感を抱いた。コーナーでの唐突な姿勢変化がないから。この傾向は最新のTTでも同じだった。ただ、FWDには乗らなかったから、比較論は語れない。安心感が高いのだけは間違いない。
 エンジンはTTが230馬力、TTSが286馬力。加速はともにいい。たとえば0→100㎞/h。TTが5.3秒、TTSが4.7秒。これは相当いい数値だ。とくに、4本のエキゾーストパイプを出すTTSはサウンドの演出が巧み。低く唸るような排気音がスポーツ心をくすぐる。ついでに付け加えておくと、クーペは4人乗り、ロードスターは2人乗りだ。トランスミッションは全車6速Sトロニック。ベースはMTだが、2ペダルだからAT限定免許でOKだ。
 乗り心地が意外に良かったのはTTSだ。これはこのモデルにだけ採用されているマグネティックライドによるところが大きい。どのTTもドライブセレクトで5種類のモードを選択できるが、TTSは走行モードに応じてダンパーの減衰力を自動的に制御する。この技が凄い。優れた最新テクノロジーの好例だ。
 さて、バーチャルコックピット(12.3インチ)。確かに解像度は群を抜くし明るさも十分。表示の形に多少違和感はあるが決して見にくくはない。タコ&スピード・メーターは普通のサイズになったり、左右に押しやられて小さくなったり。そしてその背景はナビになったり、インフォメーションになったり。視線の移動は不必要だ。便利だと思う。便利だとは思うが、その操作をシワの少なくなりつつある脳みそに覚えさせるのに思いのほか時間がかかった。もちろんオーナーになれば慣れる問題だと思うけど。
 燃費も改善された。TTが13.0㎞/ℓから14.7km/ℓへ、TTSが11.8㎞/ℓから14.9㎞/ℓへ。このあたりもアウディはぬかりない。3代目アウディTT──豪華で先進的なスポーツカーになった。ただ、その分プライスもややアップ。TTクーペ(FWD)が542万円、同クワトロが589万円、TTSクワトロが768万円。

撮影:佐久間 健/神谷龍彦

<神谷 龍彦> 最終更新:2015/09/24